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現世乱武小説
心配だから(小十佐)


「そんなことより島、朝っぱらからなんの用だ」


相変わらず電話も寄越さねぇでと軽い嫌味を付け足して適当な椅子に座ると、左近は思い出したようにああそうでしたとわざとらしくぽんと手のひらを拳で打った。


「片倉さんに確認しておきたいことがありまして」

「……確認?」

「ええ。夏休みの無人島の件はご存知ですか?」


具体的な日取りは聞いていないが、夏休みに入ったらお決まりのクラスメイトと共に無人島に約一週間滞在するとかいう、あれか。
未だに現実味のない話というか、雲の上といった感覚で真剣に考えてはいなかった。


「ああ知ってる」


首肯を返すと左近は小さく笑った。


「…反対したでしょう」


まるで見透かしたような口振りだが、長年付き合ってきたこいつなら俺の行動パターンも想像できてしまうのだろう。

椅子の背もたれに深く体重をかけなおして微笑を返す。
軋む音が鈍く室内に響いた。


「…まあな。だが結局俺は政宗様には甘いらしい」

「押し切られましたか」

「ああ。……それでもあの方が遊べる最後の夏だ。後悔はしてほしくない」


こちらの言い分になるほどと頷き、左近はじゃあと続けた。


「そのあいだ旅館は貴方が?」

「そのつもりだ。」

忙しいだろうがなんとかなるだろう。
出来れば佐助の手伝いもなしで、うちの従業員の中で回したいところだ。
胸中でそう呟いてところでと話を続ける。

「石田も行くんだろう。お前もついてくのか?というかついてけ」

「なんですかそれ」


こいつは苦笑しているが、現実問題せめて大人が一人はついて行ったほうがいい。
政宗様に許可したのも、先の理由のほかに島が石田のツレとして同伴するのを前提としたからだ。

それを端的に伝えると島は乾いた笑みを浮かべた。


「要するに俺に全員の子守りをしろ、と」

「お前の必要性なんてそこしかねぇだろ」

「んー、俺が言うのもなんですが、たぶん三成さんが一番手がかかるんですよね」

「ああ、判る気がする」

「で、次が幸村ですか」

「だろうな。場合によっちゃ直江も相当めんどくせぇ」


無意識に腕を組んでしまってから、己の席に座る男と同じ体勢をしていたことに気付いて腕を解く。
というかなんで俺が来たのにお前がそこに座ってる?


「そこでなんですが……佐助もやっぱり来れないんですかね」

「…どうだろうな。話が出たときはそんなこと言ってなかったが…」


だが休もうと思えばあの一座なら休ませてくれるだろう。
もともととび職の仕事の流れからぶっ飛んだ連中なのだ。本来なら現場集合などではなくちゃんと会社に出勤してからまとまってだな…


「…片倉さん?聞いてます?」

「あ…?わりぃ、なんだ?」


今はとび職の在り方について考えているときではない。
はっと我に返って訊き返すと、面倒くさがる風もなく左近は言いなおした。


「せめて佐助だけでも借りたいって言ったんです」

「……」

「…あれ、片倉さん?」

「……聞こえてる」


ダメに決まってんだろ、テメェ一人でどうにかしやがれ。そう切り返してやりたいところだが…
佐助との時間と同じくらい政宗様の御身も大切だ。
こいつに任せておけば何も心配はないだろうが、なにぶん行き先が普通ではない。
帰ってこられなくなって遭難しましたなんてことになったらそれこそ俺の気が触れる。


「…気持ちはお察ししますよ。何せ一週間だ、難しい選択でしょうけど…」

「――判った」

「え、」

「あとは佐助の都合と意志次第だ」


きっぱり言うと左近は一瞬言葉に詰まったようだったが、目を細めゆっくりと深く頭を下げた。


「…有難うございます」

「いや、政宗様のためだ。…それに、」


もしものことがあって、政宗様だけでなくこいつまで失ったら。
俺が俺でなくなる気がする。


「それに?」

「…それに真田が心配でそわそわしているあいつを見るのも忍びない。だったらいっそついて行ったほうが心労は減るだろう」

「ま、それもそうですね」


それらしいことをなんとか捻り出して答えると、左近はこちらに会わせるように控えめに笑って頷いた。


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あきゅろす。
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