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現世乱武小説
支配人はモテモテ(小十佐)


佐助と幸村を家の前まで送り、すっかり迷うこともなくなった迷宮団地(俺が命名した)を抜けて旅館に戻る。

つい思考を満たしてしまうのはやはり鬼庭の件。
成実殿が関わっているのは明白だが、どことなく俺に対してよそよそしくなったように感じるのは気のせいではないだろう。
昨夜一緒に飲んでいたときは別段変わったことはなかったから、何かあったとしたらお開きになったあと。
そもそもあの二人がわざわざ部屋をとったこと自体不自然といえばそうだ。
介抱なら事務所でも十分できる。


…つまり、事務所ではできないこと。


「……なわけねぇか」


一瞬浮かんだ有り得ない考えを振り払い、運転に集中する。


有り得ない。

あいつは――鬼庭は、酔った勢いでそんなことをするような奴ではない。
雑な性格だがけじめはちゃんとつける。

そういったことに腰を上げそうなのは寧ろ成実殿のほうで、いつも悪ノリを嗜めるのが俺の役回り――…




……ん?

まさか、そういうこと、じゃないよな…?


いやいや、それこそ有り得ないだろ。
鬼庭が成実殿をっていうならまだしも、成実殿が鬼庭を、なんて…


「……」


しかしそう考えればそれぞれの性格上成し得なかった光景も容易に思い浮かべることができるわけで。
想像できてしまうということは真偽はどうあれ可能性は零ではないわけで。

有り得なくは…ない、わけだ。


「………」


そうなれば今朝の鬼庭の不可思議な態度の変わりようも納得がいく。
柄に似合わず顔を真っ赤にさせて目も合わせなかった理由……単に俺にバレるのが嫌で、同時に照れを隠したのだろう。

だがひとつ謎なのは、いつの間に鬼庭と成実殿がそういう仲になったのかということ。
見ていた限りではお互いそんな素振りはなかったし、どちらかといえばあいつら二人とも佐助を狙ってんじゃねぇかと冷や冷やしていたくらいだ。


「……ま、人の心なんて一秒ありゃ変わるか」


大通りから小道に曲がり、久しぶりの休みをとった旅館・竜の住み処へと入っていった。













「あ、おかえりー」

「ただ今戻りました」

「お客さん来てるよ」


裏口から入るなり雑巾とバケツを持った成実にはっきり言われた。
だが今日は休館日だ。客なんて来ないはずだし、来たところでお引き取り願うのが普通ではないだろうか。

目が点になる小十郎に、成実は悪戯っぽく片目を瞑ってみせた。


「かたくーモテモテだね」

「はぁ…?私個人の客ですか」

「うん、そんなとこ。…なんか羨ましいや」

「?」


成実のどこか切なげな顔に小首を傾げる。
自分がモテモテかどうかは知らないが、成実とて老若男女ともに人気がある。
気さくな性格に綺麗な顔立ちも手伝って、謙遜ではなく実際俺などよりモテモテだ。

そういうところに気づかない人ではないはずだが…


「事務所に通してあるよ。つなもっちゃんが相手してる」

「…了解しました」


はぐらかすように明るく言いおいて、成実は小走りでバケツを持って表玄関へと消えた。
釈然としないままとりあえず事務所に向かう。

客とやらが誰なのかなんとなく想像はついていたが、やはり奴だった。


「ああ、ご無沙汰してます。片倉さん」

「……島」


俺の席に当然のように座っている大柄の男。長い黒髪と左目尻の傷がトレードマークの旧友。

何を話していたのやら、島と斜向かいになる位置に座っていた鬼庭は何故かまたもや赤面している。
同い年ということもあり、あまり苛めないでやってほしいところだが…


「じ、じゃあ俺席外すわっ」

「そうですか?またいつでもお話聞きますからね、鬼庭さん」

「ッ…き、気が向いたらな」


乱暴な足取りで事務所をあとにする銀髪を見送って、小十郎は疑問を口にした。


「…あいつがお前にするような話ってなんだ?」


おそらく直接話をしたのは今のが初めてではなかろうか。
左近は小十郎を見るなり困ったように笑った。


「……成実さんにも、もちろん片倉さんにも言えないような話ですよ」

「…で、お前になら話せることか」

「そういうことです…。まったく、モテモテなんですから」

「……それ、どういう意味だ?」

「どういう意味でしょうねぇ」


揃いも揃ってなんなんだ…


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