[携帯モード] [URL送信]

現世乱武小説
三傑の揺れ(小十佐)


「とにかく、才蔵とのこともあるし大将も寂しいだろうし……俺様、先に家帰ってるから」


それだけ言い置いて立ち上がろうとした佐助の足首を、幸村が怨めしげにがっしと掴んだ。その力は相変わらず弱々しくはあったものの先程よりは強くなったように思える。

そうだ…いくら慣れないことをして足腰立たなくなったとしても、この人があの旦那であることには変わりないのだ。
生命力や回復力は並ではない。


「待て佐助、俺も行く」

「え……いや、旦那が行きたいならいいけど…でも気まずくない?」


才蔵は幸村に対して完全に負い目を感じている。
そのことを知っているからこそ幸村も無理に才蔵に会おうとしなかったはずなのに。

突然の申し出に煮え切らない返事を返すと、幸村は布団の下で少しずつ体を動かしながらしっかりとした目で頷いた。


「確かに気まずいかもしれぬ。だが俺が直接話をつけねば、才蔵はいつまでも苦しい思いをし続けよう」


そこから救えるのは俺だけだ、と。


「……旦那…ほんと、立派になっちゃって…」


昨夜夜の営みをしたことはまさか無関係だろうが、一気に大人の階段を上りすぎではないか。

じん、と鼻の奥に込み上げる熱いものをなんとか堪えて、こちらの腰に触れていた幸村の手を力強く握り込んだ。


「判ったよ旦那…!一緒に行こう!」

「うむ!」


いくらこちらが怒っていないとはいえ、その心が完全に相手に伝わることはない。
現に幸村のことを訊ねることすらおこがましいと思っているのか、「最近真田は…、いや、なんでもない」などと言葉をぶち切ることも間々ある。
気になって仕方ないといった様子はばればれなのに。

才蔵には、自分を赦してくれる存在が必要なのだ。














10時過ぎには幸村も歩けるほどに回復し、遅めの朝食を摂って二人で小十郎や従業員たちに挨拶をしてまわった。


「なんだ、もう帰るのか」

「うん、あんまり大将一人にするのも可哀想だしね」


小十郎に苦笑を向ける佐助の背中に、成実が勢いよく飛びついてきた。
その後ろには心なしか疲労の色が見え隠れする綱元がついている。


「佐助さん佐助さん、オレすっげぇ話したいことあるから今夜あたりまた来てよ!」

「し、成実さんっ…?まさか猿飛に夕べの話すつもりじゃ…」


顔を強ばらせてすかさず釘を打たんとする綱元に、成実はいかにも何か企んでますといった顔で笑いかけてみせる。


「つなもっちゃん、オレのことは成実って呼んでって言ったよね」

「!!」


にたぁ、という笑顔で佐助から離れて綱元に絡み付く成実に、綱元本人は可哀想なほど凍り付いていた。

…やっぱり昨夜のは夢なんかじゃない。
あとで成実さんにじっくり訊こう。


「じゃあ旦那、俺様たちはお暇しよっか」

「そうだな。鬼庭殿、お世話になり申した!今回のテストは鬼庭殿のおかげでござるっ」

「ああ……そいつはよかった。気をつけてな」

「佐助さん、幸村さん、また今夜ね!」


今夜とか近いなぁなどと考え佐助が苦笑いを浮かべて視線を流すと、不意に小十郎と目が合った。


「…送ってくか?」

「あーいいよ、旅館も忙しいし」

「そうじゃねぇ、真田のために言ってる」

「ああ…!」


動けるようになったところで、流石に家まで徒歩というのは辛いだろう。
30分弱。口で言うのは簡単だが、実際歩いてみるとなかなか距離がある。
その道中腰の痛みがぶり返す可能性も当然あるわけで。
そこまで全く考えが行き着かなかった。
いやしかし流石は小十郎さん、視野が広くて本当、かっこいい。


「じゃあお願いしよっか、旦那」

「うう…かたじけない」

「気にするな。…鬼庭、少し抜けるから指揮、任せたぞ」


小十郎にいきなり指名されて綱元はびくりと肩を揺らす。
ぼーっとしていたのか、どこか我に返ったような顔を上げた。


「あ、ああ…」

「…どうした?お前今日様子が――」

「なっなんでもねぇよッ!とっとと行きやがれ!」

「……本当になんでもねぇのか?」


真剣な目を向ける小十郎から逃げるように数歩後ずさる綱元だが、大体の事情を知っている佐助から見てもなんだか様子がおかしい。
成実とのことを恥ずかしがっているだけではないような気がするのだ。


「ッ…、な、なんかあったら……言うっつーの」


ぼそりと思い切り目を逸らして呟く綱元を見ていた成実が小十郎の背を押した。


「大丈夫だよかたくー、オレもついてるからさっ」

「…それもそうですな。では、失礼致します」


小十郎さんはそう言ったけど、俺には判る。
小十郎さんは鬼庭さんのことを本当に心配してるんだって。

大きな背中についていきながら、佐助は軽く目を伏せた。


.

[*前へ][次へ#]

54/100ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!