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現世乱武小説
戦闘不能(小十佐)


才蔵との約束は昼過ぎ。
相手がどこに住んでいるかは知らないが、待ち合わせ場所までは家から原付で五分くらいのところなので、まだまだ時間には余裕がある。

ふと、昨日から一度も会っていない若い顔が頭をよぎった。


「腰立たないって言ってたな…」


初めてでどれだけ激しく扱われたのやら、想像するのも恐ろしい。
だがその気持ちは十分判る。もう復活した佐助は同情と親心からお見舞いに向かった。













「旦那…?寝てるの?」


部屋には既に政宗の姿はなかった。
学校に時間どおり登校するべく朝食を摂りにいっているのだろう。

ちょうど人一人分ほどの膨らみを持った布団が部屋の真ん中にちょこんと取り残されているが、部屋に足を踏み入れても何か反応するわけでもない。


控えめに佐助が声をかけると、唸り声のようなものが低い位置を這うように響いた。


「…佐助か」

「あ、起こしちゃった?」


声はすれども動く気配はない。
しかし中に収まっているのは紛れもなく幸村だ。あのいつも全力で生きているはずの、運動神経の塊のような人物が、意識があるのにぴくりとも動かない日が来るなんて。

こりゃ重症だとさすがの佐助も真面目に考えた。
枕元に回り込んで膝を突き、そっと頭まで被さっている布団をめくってみると、茶髪の後頭部が現れた。


「……大丈夫?」


優しく髪を梳くように撫でながら訊ねるが、見るからに大丈夫ではない。
本人もそれは隠すつもりもないらしく、強がる余裕もないのか再度唸った。


「…動けなくはないが……痛い」

「うわぁ……そういうときはじっとしてるのが一番だよ。無理は禁物」


言い含めるように言うと、幸村は顔だけ横に向けてこちらを見上げた。


「…さすが、実感が篭もっておるな」

「えーと…だ、伊達の旦那も初めてで、とにかく一生懸命だったんだろうね」


誤魔化す佐助に幸村は目を細めて微笑し、僅かに首を縦に振る。
普段の力強さは微塵も感じられない所作に内心困惑してしまう。


「政宗殿は…誠にお優しかった。苦しくないか、辛くないか、ひとつひとつ俺に確認してくださってな」

「…の割に随分すごかったみたいだけど」


若干からかうように言ってやると幸村の顔がみるみる赤らんでいく。
行為を思い出しているのか、目を合わせようともしない。


「あ、あれは…本能というものであろう。その……し、したことはないが俺にも判る…気がする………な、何を笑っておる佐助っ!」

「いや…なんか可愛いなーって思ってさ」


にやにやと頬を緩めているこちらに幸村はむっとした顔をしてきたが、真っ赤に染まった顔でふてくされる様はやっぱり可愛い。

すると反撃とばかりに、幸村が口を開いた。


「…佐助とて昨夜は片倉殿としたのであろう」

「おおお俺様っ?し、してないよ?ちょっと話してすぐ寝ちゃったし!」

「…ではその首の痕はなんだ」

「首!?」
そ、それってまさか…またキスマークですか小十郎さんっ!!

「それに今朝、学校に行かぬことを伝えたとき片倉殿が呟いておったぞ」


――佐助の奴は大丈夫か…?


そ、即行で心配してくれたんだ…。やばい。嬉しい。でも口には出さないでほしかった…

…っていうか旦那、なんか鋭くなってない?
なんか前より扱いづらくなったっていうか…単細胞じゃなくなった気がする。
成長を喜ぶべきなんだろうけど、一個人としては少々複雑だ。


「ど、どのへん…?その、痕…」


昼に才蔵と会うことになっているのだ。
あんまり目立つところにあったらまずい。

調子を抑えて訊ねると、幸村がもぞもぞと動いて自身の首をちょんちょんと指先でつついた。


「ここだ。髪を上げると見えるぞ」

「あ、じゃあ今のままならそんなに目立たないっ?」

「…何をそのように必死になっておるのだ?」

「う…。」

思わず返答に詰まってしまう。

旦那の疑問ももっともだろう。
本当なら今日一日、特に出掛ける用事もないのだから人目など気にする必要はないのだ。

言おうか言うまいかと逡巡したが、結局打ち明けることにした。
相手は旦那だし、隠すようなことでもない。

「実は今日…このあと才蔵に会うんだよね」

「な、なんと…!果たし合いとやらか?だとしたらやめておけっ」

「?…なんで?」


果たし合いをすることはないと思うが、やけに真剣な表情で止めてくる幸村に同じく真剣に切り返すと、幸村の手がそっと佐助の腰に添えられた。


「立てるとはいえ、一晩頑張ったのであろう…。無理はするなと佐助が俺に言ったのだぞ?」

「………………そ、そうだね。ありがと」


っだーくそっ!
純粋に気遣ってくれてるだけだから怒るに怒れねぇっ


胸中で叫びつつ、顔面には精一杯の引きつり笑いを貼り付けて。

…はあ、もう、すげぇフクザツ。


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