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現世乱武小説
過激注意報(小十佐)


「…っくしゅ!!」

「…ん?」


微睡みから佐助を引き戻したのは誰かのくしゃみだった。
背後から聞こえたくしゃみのほうに顔を向けると、こちらに背を向けた大好きな男が胡座をかいて座っている。
すんすんと鼻をすする音に佐助は二、三度瞬きした。


「…小十郎さん、平気?」

「あ゛あ゛…」


とても大丈夫そうに思えない返事につい笑ってしまったが、下半身しか服を着ていない背中は夏場といえど朝はやっぱり寒そうで。
佐助は自分の肩までかけられたタオルケットをちらりと見やり起き上がった。


「風邪?俺にコレかけてくれたくせに自分が引いてちゃ世話ないよ」


苦笑して、小十郎が昨夜かけてくれたと思しきタオルケットをその背中に後ろから包むようにかけてやる。
同時に自身が素っ裸だったことに気付いて、そこかしこに放られていた衣服をいそいそと掻き集めて袖を通していく。


「…いや、風邪なんてここ数年引いてねぇからな。これも違うだろ」

「それさ、自分が風邪って認めてないだけでしょ。絶対今までも引いてたと思うけど」


滅茶苦茶なことを言い出す小十郎に呆れながら返すと、むっとした顔がくるりと振り向いた。
見事に眉間のしわがくっきり出ている。


「どこからが風邪かなんて判らねぇだろ」

「そういうときは病院に行きましょう」

「行かなくても何日かすりゃ治るからいい。それより政宗様たち起こすぞ。明日までは普通に学校だ」


台詞の端々にずび、と明らかに鼻水をすするような雑音が混じっていたことには触れないほうがいいのだろうか。


「まともに服も着てない人はじっとしてなよ、俺様が起こしてくるから」


やれやれとあからさまに溜め息を吐いてやり、そう言いおいて立ち上がろうとしたところで腰に雷が落ちた。


「……」

「…おい、どうした」


訝しげに訊ねてくる風邪っぴきになんでもないと呻くように答えたが、もう少しこの体勢を維持して腰を落ち着かせたほうがよさそうだ。
久々に行為に及び、それもこれまでから考えても激しめだったということも加味してこれはなかなかの鈍痛だ。

少しして、小十郎がこちらの異変の原因に気づいたらしい。
どこか勝ち誇った笑みを浮かべて腰を上げ、部屋の隅にまとめられていたワイシャツを羽織りながら先程の台詞をなぞった。


「まともに腰も立たない奴はじっとしてろ、俺が起こしてくる」

「ぐ……誰のせいだと…」

「さあ?誘ったお前自身のせいかもなぁ?」


切れ長の双眸を細めて言い放つと、小十郎はシャツのボタンを片手でかけながら部屋から出ていった。

微妙な敗北感を味わいつつ、腰を庇って顔を上げ壁掛け時計を確認すると今は朝の7時ちょっと前。
責任感の強い小十郎がこんなに遅くに起床というのは珍しい。


「つーか…旦那たちどうなったんだろ…」


政宗のことは信用しているものの、幸村には未知の領域だったことに違いない。
体力は下手をしたら政宗よりあるかもしれないため心配していないが、心はどうだろう。無事だろうか。


「あと……鬼庭さん…」


あっちはおそらく心身共に無事ではない気がする。なんといっても相手はあの成実さんだ。
二人とももう起きて仕事をしているのかもしれないが……気になる。

そういえば昨夜の宴会のとき、トイレに行く成実さんに何をしているかと訊ねた際、事後報告してあげると言われたんだっけ。
…よし、ついでに鬼庭さんとのことも色々質問してみよう。


だいぶ痛みにも慣れてきてのろのろと起き上がると、今更ながら自分が掛け布団の上に寝ていたことが判った。
かといって小十郎が敷き布団を使っていた様子もない。
察するに、押入の下の方にあった敷き布団を引っ張り出すのが面倒で、だけどとりあえず何か体と畳の間にワンクッション入れてやらないとという配慮から掛け布団がチョイスされたのだろう。

本当に自分のことには無頓着だ。
それによって俺が、幸せを感じると同時に複雑な気分になっていることを知ったらどういう反応をするのやら。


「…佐助」

「あ、おかえり」


ある程度動けるようにはなってきたので布団を片付けていると、やけに真面目な顔をぶら下げて小十郎が帰ってきた。

まさか鬼庭さんたちに会って何か言われたのかと内心ひやひやしていたが、返ってきた内容はまったく違うものだった。


「真田から伝言だ」

「え、旦那起きてたんだ。なんだって?」

「……立てないから今日は学校を休みたいのだ、だそうだ」

「あっはは、なんだ旦那俺様と一緒……って…そんなにっ?」


だ、伊達の旦那…
遠慮しないとは言ってたけど限度ってもんが…


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