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現世乱武小説
保護者、叫ぶ(小十佐)


大部屋から事務所に戻ろうかとも考えたが、先程片付けや掃除をしてくれていた従業員たちに合わせる顔がないということで結局いつもの二人部屋に入った。


「面倒だから部屋のシャワーだけでいいか…」

「そうだね。先入ってきていいよ。風呂上がりのビールでも用意しとくからさ」


備え付けのタオルなどを適当に準備する小十郎に笑って返すと、小十郎は悪いなと微笑して部屋に設備されている浴室に入っていった。


佐助は押し入れにある浴衣を出して浴室の前に置き、ついでに布団も二組引っ張り出してテーブルを脇に除けそこに適当に敷く。
障子を開けて窓の外を見てみると、見事な庭と池の上に歪な月が頼りなげに浮かんでいた。


涼しい風でも入れといてあげるかな。

シャワーから小十郎が戻ったときのために窓を開けようとした瞬間、廊下に続く襖ががたがたと揺れた。


「ッ…?」


びくりとして振り返るが、襖は開けられるでもなく慌ただしく揺さぶられているのみ。


…ノ、ノックのつもり…?
声かければいいのに。


「はーいはい、どうぞー?」


訝しみながらも応じてやった途端、襖の揺れがぴたりと止まる。


……なんなんだ?つーか誰……はっ、ももももしかして鬼庭さんっ?
成実さんから逃げてきて匿ってほしいとか…!


本当にそんな気がしてきて佐助は慌てて駆け寄り襖をそっと開けた。

が、廊下に立っていたのは綱元ではない。
この旅館のオーナー、政宗だった。


「……伊達の…旦那?」


予想外の人物の来訪に思わずぽかんとしていると、唐突に政宗が佐助を押し戻すようにして部屋に強引に入ってくる。


「わ、ちょ……なにっ、どうしたの!」

「なんもしてないみてぇでよかった……邪魔するっ!」

「うわっ、待っ…あぶないから押さないっ」


肩で息をする政宗に危うく押し倒されそうになりながらもなんとか態勢を死守する。

様子がおかしい。
目をせわしなく彷徨わせて、ひどく興奮しているようだった。


「小十郎は……小十郎どこだっ」

「シャワーシャワー!ちょっと落ち着いてよ旦那!」


強く相手の両肩を掴むと、政宗ははっとしたようにしっかりとその隻眼に佐助の姿を映した。


「あ、ああ……sorry」

「いい?一個確認。今かなり急いでる?」


目を見て真剣に訊ねるこちらに、政宗は何度か口をぱくつかせたあと首を振る。


「…いや、そうでもねぇ」

「じゃあ落ち着いて。どうしたの、真田の旦那と何かあった?」

「…っ、」


こくこくと首が取れそうな勢いで首肯する政宗をどうどうと宥めて、改めて向き直る。


「……何があったの」

「…お、俺さ……いや、俺たち…」

「うん、旦那たちが?」


政宗はひとつ深呼吸して、真顔で口を開いた。





「…ぬ、抜きっこ……しちまった…」





……え、



「ええええぇぇぇっ!!!」


爆弾並みの告白に佐助が驚いた直後、バァンッとものすごい勢いで浴室のドアが開いた。


「おいっ、どうした佐助ッ!!」


「小十郎っ…!」

「なっ、政宗様が何故…?」


驚きに目を見開く小十郎。

政宗は飛び出してきた裸の小十郎を認めると、一拍置いて感嘆の声を上げた。


「Wow...相変わらずでけぇな…」

「…あ、あぁ…これは失礼致しました」


政宗の言葉に、小十郎は思い出したように浴衣の隣にあったタオルを腰に巻き付けた。

シャワーの水音が絶え間なく聞こえてくる。
体も髪も、全部がぐしょぐしょの小十郎に、佐助はふらふらとした足取りで歩み寄ると濡れることも構わずにその体にぽすんと寄りかかった。


「…どうした佐助、大丈夫か?」

「小十郎さん…、」

「なんだ」

「…伊達の旦那と……真田の旦那が…」

「?」








「……えええええぇぇぇっ!!?」


数秒後、今度は小十郎の叫びが轟いた。


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