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現世乱武小説
奥の部屋(小十佐)


そのまましばらく二人で他愛のない話をして、夜も更けてから大部屋に戻った。
しかしあれほど騒いでいた皆は中におらず、飲み食いしたあとの片付けを数名の従業員たちが行っているのみ。
その作業も終盤で、どうやらだいぶ前に撤収したらしいことが窺えた。


「あ、支配人!お疲れさまッス」


うちの一人が小十郎に気付いて頭を下げると、ほかの従業員も挨拶を寄越してくる。
小十郎はそれに応えるなり、佐助が抱いていた疑問と同じものを口にした。


「政宗様とほかの連中はどうした」

「皆さん部屋に別れたみたいッスよ」

「成実殿と鬼庭もか」


政宗も含め、あの二人は客ではない。
片付けを手伝うのは当然の流れのはずだ。

するとリーゼント頭の男がロン毛の男と目を合わせ、よく判っていないような顔で頭を掻いた。


「それが……酔い潰れた綱元さんを成実さんが介抱してるみたいで」

「酔い潰れただと?」


小十郎の眉がぴくんと跳ねた。
心なしか低くなった声にリーゼントの男の顔が強張る。


「は、はい。俺らが看ときますって言ったんですけど大丈夫だって……やけに嬉しそうでしたよ」

「成実殿…まさか珍しいから面白がって吐かせてたりしてねぇだろうな」


小十郎が言うシチュエーションが容易に思い描けて、佐助は渋面で隣の袖を引っ張った。


「お、俺様見てくるよ」

「…ああ、頼む。マズそうだったら止めてやってくれ」



普段は口喧嘩している小十郎でもさすがに心配らしい。

佐助は頷いてリーゼントの男に向き合った。


「真田の旦那とかも同じ部屋?」


綱元が潰れたのなら幸村がなんともないはずがない。
あんまり迷惑をかけてしまうようならつれて帰ろうと思って訊ねたが、リーゼントはいいえとかぶりを振った。


「オーナーと真田さん、兼続さんと元親のアニキ、それと綱元さんと成実さんで二人一部屋になってます」

「…なるほど。伊達の旦那がついてるんじゃ問題ないかな。
成実さんたちの部屋教えてもらっていい?」









従業員に部屋を聞き、佐助は廊下を急いでいた。
いくら成実さんがやんちゃとはいえそこまでするとは思えないが…
小十郎さんやほかの人たちの反応を見る限り本当にやりかねないんだろうなということは察した。
鬼庭さんのピンチだ。


「えーっと……この隣、だよな」


一番奥の部屋に視線をやって小さく呟く。

…酔っ払いを介抱するなら普通水場が近いほうがいい。というか事務所で十分だ。
それをあえて客間(それも奥まったところのだ)を使うあたり、成実さんの悪巧みが渦巻いている気がしてならない。

鬼庭さん、無事でいてくれ。そう願いつつ近づくと、不意に声が聞こえた気がして佐助は足を止めた。


…今の、鬼庭さん?


なんだかひどく弱っていて、あの綱元のものだとは考えがたかったが、その声はまた聞こえてきた。


「…――、……ねさんッ…ん、ぁ!」

「!!」


明らかに艶を含んだ上擦った声。

まさか……まさか鬼庭さん、成実さんと…!


悪いとは思いつつ、佐助は忍び足で一番奥の部屋の前に行くと耳を澄ませた。
やはり中からは掠れた甘い、焦ったような声が。


「ま、待っ……、成実さんっ」

「あーばーれーなーいー。…ね、こうすると気持ちよくない?」

「ん ぅ、あッ!やめっ……く、」

「…うーわ、やっばい涙目。つなもっちゃんかわいー」

「ふざ、け……ァあっ、んっ!」



……こ、これは。

これはもう決まりだろ…


………。


つーか何してんだ俺様!
ププププライバシーだろこれっ


唖然として凍り付いていた佐助は、そこでようやく我に返った。


と、とりあえず…吐かされたりしてないな、うん。
……ナかされてるけど。いろんな意味で。


足音が立ったりしないよう細心の注意を払い、足早にその場をあとにした。


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