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現世乱武小説
ブームを斬れ(小十佐)


「……」


借りた服に着替えて外に戻ると、そこで待っているはずの背中が見あたらず佐助は一瞬フリーズした。


「んー……ちょっと寒くなってきたから…戻っちゃったか」


お猪口は二つ残っていたが、瓶と小十郎本人がいない。
小さく笑ってお猪口を拾い上げ、中に入ろうとしたときちょうど扉が開いて小十郎が出てきた。


「お」「あ」


同時に零れた音が微妙な和音をなす。

ぽかんとして佐助が小十郎を見上げると、視界に新しい瓶を握る手が映った。


「あっは、なんだぁ…足りなくなっただけか」


てっきり体が冷えてしまったのかと思っていた。

しかし、脱力して笑う佐助に小十郎は難しそうに眉をしかめる。


「…お前もあれか、腰パンの波に乗せられたのか」

「腰パンの波?」


そういえば小十郎の視線はこちらの下半身に向けられている。

腰パンといえばよくすれた高校生の男の子なんかがズボンを腰骨あたりで履くスタイルを指す。
学生でなくてもたまにイケイケな兄ちゃんは町中でもそういうファッションを好んでしているが…

あんまり真面目な顔をしてそんなことを言ってくるので思わず吹き出してしまった。


「違う違う、ちょうどいいサイズがなかっただけだよ」


それほど小柄ではないつもりだったが、ウエストが合うものが見当たらず仕方なしに適当なものを引っ張り出してきたのだ。
よく探せばあったかもしれないが、あまり小十郎を待たせたくなかったというのが本音だ。


「ああなんだ、そういうことか」

「もしかして小十郎さん、腰パン許せないタイプ?」


テレビの街頭インタビューなどでたまに今時の若者の生態について激怒している大人がいるが、小十郎さんもそのうちの一人だったりして。

笑いを噛み殺して言うと、小十郎はいや、と軽くかぶりを振った。


「許せないわけじゃねぇが……引き下ろしてやりたくなるだろ」

「…それ、同意求めてる?」

「ならねぇか」

「……なんない。寧ろ上げたくなるけど」

「…希少種だな、お前」

「俺!?」


おそらくずり下げたいという意見なんかよりは断然多いと思うんだけど…

っていうか、それってもしかして。


「…じゃあ、今もそう思ってるんだ…?」


腰パンしているように見える俺のズボンを引き下ろしてしまいたい、と。

先程と同じ位置に腰を下ろす小十郎にお猪口を渡しつつ訊ねると、持ってきた日本酒の瓶をさっそく傾けながらなんでもないことのようにさらりとした返事が返ってきた。


「ああ。事故が起きる前に座っとけ」

「りょ、了解…」


そ、そんなに自制の効かない衝動なんだ。

佐助はいそいそと小十郎の横に座るとそのまま隣の逞しい体に寄りかかった。


「飲むか?」

「ん、もういいや」


掲げられた瓶に苦笑して断り、じっとりとした大気に包まれる空を見上げる。
満月になりきれていない微妙な月がぽつんと浮かんでいた。


「…お礼言わなきゃね。旦那のテスト」


直接面と向かって言うのは照れくさいから、空に向かって呟く。
すると横から呆れ半分の溜め息がひとつ。


「今回は何もしてねぇ。鬼庭の奴も楽しんでたしな、礼を言うのはこっちだ」

「そっか…」

前も思ったことだが、相変わらずこの人は気負わせない言いまわしが得意だ。
くすりと笑い、佐助は調子を変えて口を開いた。

「あとは無人島旅行だけだね。心配ごとっていったら」

「……。あれは島にすべて任せる」

「…島さん、みっちゃんの相手で手一杯じゃない?」


ほかの問題児の面倒まで見きれるかどうかは怪しいところだ。
せめてもう一人くらいしっかりした人がほしいところだが…

しかし小十郎はそうでもねぇさと言ってお猪口をあけた。


「アイツは本気になりゃあと四本は腕生えるからな」

「怖っ!」


…ベッドの上とかどんなプレイしてるんだろ。
左近を肴に冗談とも本気ともつかない話(冗談でないと大変だが)をしながら二人で笑いあった。


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