現世乱武小説
成実の罠(小十佐)
思い切り勢いをつけて投げたのに、軽い成実の体は器用に受け身をしっかり取っていた。
さすがは伊達の血、と佐助が感心していると、成実は投げられた衝撃に歪めていた顔をはっと閃かせ一人手を打つ。
「そっか!なるほど!」
「し、成実さん…?」
「うわ、なんでシゲ投げられてんだよ」
「見事だ!鮮やかな一本背負いだったぞ!」
「なーにやってんだか」
さすがに宴会の席で投げたのは注目を集めてしまったようだ。
未だ畳の上に転がったままの成実に呆れ半分心配半分といった感じで皆が集まってくる。
その中に小十郎と綱元もいることを確認すると、成実の目が光った。
「うあああんっ、つなもっちゃん聞いてよ!佐助さんが急に投げてきたんだっ、オレ何もしてないのにぃー!」
「いや、それはねぇでしょう……って、うごぁ!?」
背負い投げのダメージなどまったく感じさせない身のこなしで成実は飛び起きると、そのままなだれ込むように綱元の腰にアメフトよろしくタックルした。
決して小柄とは言えない綱元を突き飛ばして一緒くたに畳に転がると、成実はその上に乗って相手の胸にしがみつく。
唖然としてその一部始終を見ていた佐助のほうを、ちらりと成実が振り返り唇を動かし言葉を紡ぐ。
『今のうち』
読唇術など出来ないが、そのくらいは読み取れた。
まったくこの人は…
行動力は幸村以上ではなかろうか。
「…小十郎さん、」
「…どうした」
呆れ顔で絡まり合う仕事仲間を眺める小十郎のシャツを軽く引っ張る。
日本酒とお猪口を手に持ち、成実に感謝しつつこっそり囁いた。
「外で飲まない?」
小十郎と佐助が連れ立って部屋を出て行くのを見届けると成実は漸く上体を起こした。
やれやれ…手間のかかるカップルだ。
「しげざねさん……途中本気で寝技入ろうとしてませんでした?」
「だってつなもっちゃんが暴れるから」
「いきなりタックルかまされたら暴れもしますって!!」
「いきなりじゃないよ。ちゃんとアイコンタクトしたじゃない」
「嘘だっ」
ばたばたと暴れる綱元の下腹部の上にしっかり馬乗りしたまま話していると、羽織の衿を後ろから誰かに掴まれた。
「いつまでもじゃれてんじゃねぇよ」
「お、政宗も混ざりたい?」
政宗が力任せに引き離そうとするので、ここは素直に退いてやる。
綱元をいじめるのは楽しいが、政宗をいじめると小十郎が怖い。
まぁこちらの悪戯の度が過ぎると当然綱元も怖くなる。
しかし単純な力どうしの喧嘩ならまず負けるだろうが、取っ組み合いになれば柔道経験のあるこちらが有利。力の入れ方などは心得ているため、とりあえず負けたことはなかった。
「あ、そうだ。アニキって酒いけるほう?」
くるりと振り返り、綱元と同じ銀の髪を持つ男に笑いかける。
眼帯に顔半分が隠れているが、目鼻立ちから男前であることが判る。
「どうだかなぁ…。まだ潰れるほど飲んだことはねぇっすけど」
難しい顔をして唸る元親から綱元に視線を移し、にやりと笑った。
途端綱元が渋面になっていく。
「…まさか成実さん」
「新入りさんは試さなきゃでしょ!」
「……やっぱり」
「ええっ、飲み比べすんのっ?俺が鬼庭さんと!?」
がっくり肩を落とす綱元と、恐れ多いと尻込みする元親。
「オーナー、なんとか言ってやってくださいよ……俺だってそんな若くねぇですって」
「小十郎潰すより楽だと思うぜ?」
「…おいおい政宗、そりゃ聞き捨てならねぇな。片倉さんがどんだけつえーかは知らねえけど、俺だってそこそこ飲める」
おお、アニキの闘志に火がついた。
これでつなもっちゃんが落ちるのも時間の問題かな。
で、最終的につなもっちゃんを食べるのはオレ。
佐助さんとかたくーにあてられたのかな…
こんな感情今までなかったのに。
でも、ない頭をたまに使ってみるとそこそこ上手く事を運べるらしい。
政宗のかけ声で酒を煽る二人を眺めながら、内心にんまりとほくそ笑んだ。
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