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現世乱武小説
擦れ違ったなら(左三)


離しては角度を変えてまた合わせ、さらに啄むように小刻みに吸い付くと三成さんはぎゅっと目を堅く閉じて体を強ばらせる。
しかしここで引いてやるつもりはない。寂しがっていた相手にはそんな気遣いもあるだけ煩わしいというものだろう。

抵抗しないのをいいことに手探りで助手席のシートベルトを外し、シートを下げてサイドブレーキを乗り越え左近は隣へと移った。

相手の肩の横の背もたれに手を突き体重をかけて、足を跨ぐように片膝を乗せれば縫い付け作業の完成だ。


深く、深く。
何度もしているのに未だキスに対しても処女のような初さを見せつけてくる。
それが堪らなく可愛くて、同時に声も枯れるほどにこの痩身を突き上げ手酷く抱いて泣かせたくなってしまう。
…恐怖で震える瞳を見てみたくなる。


舌を絡めては緩く吸い付いて相手の上がっていく息遣いを楽しみ、ぐっと距離を詰めて下半身を相手の太股に押しつける。


「さこっ、あ…ゃ、」


熱い熱芯に驚いたのか、三成さんはびくりと肩を跳ねさせて顔を背けた。
無理矢理追うこともできたがあえてせず、吐息が重なるほど近くでくすりと笑みを返すと長い睫毛に縁取られた茶褐色の瞳に睨まれた。

頬を上気させながら乱れた息を整えようとしている姿からは怖さよりも色気しか感じられないが。


「なんの…真似だ、いきなりっ」

「いえ、どうやら左近の注意力が散漫していたようですんで…」

「は、話が見えぬっ」


鼻先を相手の頬に滑らせて耳元に口を寄せ、背もたれから片手だけ離してワイシャツの胸元を開かせる。


「左近はどこにも行きやしませんよ。…だから、そんな不安そうな顔しないでください」


ぺろりと柔らかい耳朶を舐めて唇で食んでやると、喉を震わせて堪えるように体を縮こまらせながら上擦る声を紡いだ。


「なら何故っ……だ、かなかっ…」

「三成さん…?」


必死に訴えてくる様子はなんだか泣きだしてしまいそうなほど儚くて。
怪訝に思い少し体を離すと、やはりそこには眦に涙を滲ませた三成の顔があった。

その涙が羞恥からくるものではないことを左近が察すると同時に、三成は離れろとばかりに己に覆い被さる逞しい体を押し返す。
力の差は埋められずとも、びくともしない体を何度も押し続けた。


「俺のからだにはっ…もう、あきっ……飽きたのだろうっ!」

「……え、はい?」


一瞬、自分の耳を疑った。

三成さんの…からだ?
からだに飽きた?

……誰が。




――俺、が…?




左近はぽかんとして腕の中で震える小柄な人物を見つめた。

…俺がこの人の体に飽きるなどあるのだろうか。
ただでさえ感度良好だった体が、頑張ったかいあってさらに快感を拾いやすいそれに変化しつつあるのに…

いや、それ以前に三成さんの何かに飽きを感じるなんてありえない。
肌を重ねて繋がらなくてもこんなに愛しく感じているのがいい証拠だ。


と、そこまで考えて判った。

だいぶ前に判ってもらっていたつもりだったが、行き届いていなかったらしい。


「…三成さん。今更ですが、俺は体目当てで貴方といるわけじゃない」


何かにつけて手を出していたことが、今更になってこんな形で返ってくることになるとは思っていなかった。

諭すように言ってこちらの胸を押してくる相手の手を掴む。


「俺が貴方を抱いていたのは、心配だったからです。…貴方が、俺から離れちまうんじゃないかって」

「俺が…離れ…」


手放してはいけない。
つなぎ止めておかないと。

その一心で、この人が俺の手の届かないところに行ってしまわないように大事に抱いた。


「抱かなくなったのは…三成さんがテスト期間ってのがきっかけでしたが、抱かずにいられるのは貴方が俺の傍にいるということに安心出来たからです」


わざわざ快感を与えて餌付けのような真似をしなくても、三成さんは隣にいてくれる。
そう気付いたから。


「情けない話ですがね……自信が持てたんですよ。貴方を縛り付けずに恋ってやつをする自信が」


困ったように笑うと、今度は三成さんがぽかんとしてしまった。

まあ、驚くのも無理はないだろう。
外でもない自分自身が、こんな繊細な己に一番驚いているのだから。

小さく苦笑すると、三成さんは軽く唇を噛んで俯いた。


「俺は……、ただ…お前が…」

「俺が…なんです?」


優しく問い返し、ちゅ…と白い手に口付ける。


「お前がただの性欲魔神で、俺に飽きて抱く価値もないと思われたとばかり…!」

「せ、性欲魔神っ?」

「すまなかった…」

「あ…いえ、そんなとこだろうなぁって思ってましたから…」


…やっぱり、誤解は解消されていなかったらしい。
三成さんにとって俺って…


申し訳なさそうに謝る三成さんに、俺は薄く笑い返すしかなかった。





この年になって、漸くだ。
やっと誰かを愛することができた。

上辺だけの愛情はやっぱりニセモノでしかない。心から誰かを想うことを三成さんに学んだ。
それは頭を使って捻り出すものじゃなくて、ひどく頼りなく曖昧ではあるけれど……心で、体で、感じるとるものだった。
苦手な分野ではあったが、こういうのも悪くない。

こんなこと、あの恥ずかしがり屋の人に言ったら顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまうかもしれないけど。


――会えてよかった。
別段、不自由ない人生だったろう。
寧ろ人に頼られて適当に遊んで、充実していたとも言えるかもしれない。

だが、それではきっとつまらなかった。
傍から見たらそれなりであっても、淡白に世界を見ていた自分自身はつまらなかっただろう。


大切な感情と、それを与えてくれた大切な人。
壊したりしないよう、しっかり守っていこう。


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あきゅろす。
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