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現世乱武小説
傍にいてくれるから(左三)


空になった缶とグラスを流しに持っていき、左近はリビングをちらりと見遣った。
視線の先にはソファに小さく丸まるように横になっている三成がいたが、既に熟睡してしまっている。

大人の味を制するなどと豪語していきなりグラスを空けたのには驚いたが、止めたとき更に暴れられたことにはもっと驚いた。
そこまでしてビールに挑まなくてもいいのにと思いながらも、懸命に己と同じ土俵に立とうとする三成さんの姿が可愛らしくてつい強く止められなかった自分は保護者失格だろう。


「…飲みたりないが……今日はいいか」


くすりと笑って蛇口を捻り、缶の中身をざっと流す。

結局グラスだけでなく缶にあった残りもすべて三成が処理した。
大人の中にだってビールが苦手な者はいる。特に最近では甘いもののほうが好きという男性が増えてきているのだとか。
どうやら三成さんもそのうちの一人らしい。
…まぁ、ただでさえプリンやらチョコやらが好きな三成さんがビールを旨いと感じるわけはないか。


グラスも洗って空き缶を潰し、適当に水を切ってごみ箱に投げ込む。


そういえば、やけに三成さんは大人の味という単語にこだわっていたような気がする。
まだ早過ぎたというこちらの台詞が余程気に入らなかったのだろう。

前の一件から、三成さんは誰かに頼りにされたがっているのであろうことは判ったというのに、その傍からあの発言は浅はかだったとしか言いようがない。


しかし…


穏やかな寝息を立てる三成の体躯を見下ろして、左近は困ったとばかり内心嘆息した。


だってそうだろう。
こんなに細い腕や背中をして、何か大事があったらと思うと息が詰まりそうになる。
子供扱いというより、単に心配なのかもしれない。
だから自分が近くにいるあいだはなんでも手を出してやってしまうわけだが…


……これじゃ前に逆戻りだな。


それがいいか悪いかと訊かれれば、きっと悪いのだろう。

別段己は世話焼きというわけでもなかったつもりだ。寧ろ他人は他人と割り切っていたほうだと思うし、今も根底にはその考えが根付いている。

洒落たことを言うなら、とことん気にかけてしまうのは恋の病というやつの症状のひとつだ。
…悲しいことに、今の段階では処方箋は見つかっていない。


「……さてと。」

一人会議も済んだところで、三成さんを布団に移すか。
こんなところで寝て風邪でも引かれたら困る。

「ちょっと、失礼しますよ」


ソファに丸くなっている三成の膝の下に手を差し込み、肩を抱き抱えるようにして引き寄せそのまま一息に腰を伸ばす。
寝ているため体は重く感じるが、それでも薄くて細い体は男にしては軽い。

三成を起こしてしまっていないか確認すると、横抱きにしたまま左近はリビングを出て寝室に進んだ。
足で掛け布団をはねてそこにゆっくり痩身を下ろし、枕に広がる柔らかい髪を軽く整えてやる。
三成の髪は寝癖がつきやすい。寝相は悪くないため、寝る前の髪型で次の日の髪型が決まるといってもいいのだ。

布団を首元まで引き上げて白い頬に指先を滑らせると、左近はそっとその場を辞した。



ちなみに触れてはいけなかったのは初日だけだった。
翌日には三成が肩を揉んでくれと疲れを滲ませて言ってきたので、満足するまでほぐしてやった。
先程も抱き上げたりと、触れるのみなら別段咎められない。
まあ、そこで少しでも下心を見せればそれも叶わないのだろうが。

つまり約一週間肌を合わせていない。
それを苦に感じることを内心覚悟していたが、すぐ近くに三成を感じながらそれはなかった。
寧ろ山形に飛んでいたときのほうが煩わしかったようにさえ思う。


三成さんも俺があまりに普通すぎて驚いてたみたいだし…

思うに、三成さんがちゃんと己の隣にいるということに安心しているのだろう。交わって縛り付けなくても、隣にいる事実に。
要するに、俺にとって三成さんがそういう大きな存在になってるってことだ。


「……参ったね。人を大事にするなんて慣れてないんだが…」


嘆息気味に呟き、もう寝るかと電気を消してソファに身体を沈めた。


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