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現世乱武小説
嗜好…だ、と?(左三)


い、言ってしまった…


三成はソファに座ったまま動かなくなってしまった左近を視界に収めながら、ごくりと生唾を呑んだ。

触れられれば、左近を知ってしまっているこの体は浅ましく反応してしまう。
そうなれば勉強どころではなくなってしまうのだ。
そっちにばかりかまけていたらなんのために欠席宣言してまで学校を飛び出してきたのか判らない。


「…えーと、」

しばらくして、左近が眉間を指で摘みながら顔を顰て口を開いた。

「てことは、ですよ?」

「…なんだ」

「左近は三成さんのお傍にいながら、指一本触れてはならぬということになりますが」

「…そうなるな」


頷きを返してから、それは少し可哀相かと頭の隅で考える。

左近の体の大半は性欲から出来ている(これはあくまでも俺調べではあるが)。
それを差し押さえたらこいつは発狂してしまうのではないか。
一人で山形に行ったときは数日間耐えられたようだが、今回は俺という対象が同じ空間にいる。


「三成さん、…そういうの生殺しっていうんですよ」


…やはり、流石に酷すぎるだろうか。
ならば、せめて部屋を別にしてやれば楽になるかもしれない。
左近と一緒にいたいが、こちらの我が儘にばかり付き合わせて相手を無視というのは自分自身許せるものではない。
そう考えて言い出そうとしたとき、左近が不意にこちらの動作を遮るようにですが、と言って片手を挙げた。


「…三成さんがそういう嗜好をお持ちならば、左近は何も言いますまい。お付き合いしましょう」

「嗜好…?」


嗜好と言われるほどの何かを要求したとは思えないが…

三成が小首を傾げて訊き返すと、左近はさも困りましたねとでも言いたげに笑った。


「ええ、焦らしプレイでしょう?」


……え。

「俺としてはどっちかというと焦らすほうが好きですが……三成さんのご希望に添いますよ。
テストはいつまででしたっけ」

「…いや、待て。テストは来週の水曜までだがちょっと待て!」


焦らしプレイって…

俺がそんな嗜好を持っているなどと本気で思っているのかこいつは!

…そうだ、忘れていたわけではないが相手は左近だ。
そのくらいの解釈はするかもしれない。
が、このまま誤解されたままでいいはずもない。
この俺が!じ、焦らしプレイなど…!


「…左近、俺は別にそういう意味で言ったわけではないぞ」

「三成さん、ここには左近しかおりません。ご自分の欲をさらけ出していいんですよ」


俺たち恋人じゃないですか、そう続ける左近の眼差しは真摯な光を宿していたが、しょっちゅう己の欲を晒している男に言われたくはない。


「だから違うと言っているだろう!」

「何を遠慮しているんです、俺なら大丈夫ですから」

「誰もお前が出したくて辛そうにしている顔など見たくないわっ」

「え、でも三成さん…」

「でももだってもあるかッ!俺にそんな趣味はない!」


鼻息荒く半ば叫ぶようにして言い放つと、左近は一変してくつくつとおかしそうに笑い出す。
それを引き金に纏う空気というか、気配のようなものががらりと入れ替わったことから三成ははっとした。


「…まさか……お前っ!」

「判ってますよ。ちょっとからかってみただけです。左近は傍におりますから、ゆっくりお勉強してください」

「な、なっ…!」


あまりのことに口をひたすらぱくつかせていると、ひとしきり笑った左近がさて、と調子を変えて膝を叩いて立ち上がった。


「その前にコーヒーでも飲みますか。それともお茶にします?」


何事もなかったかのように飄々と訊ねてくる長身の背中に、三成は低く呪詛の如く呟いた。


「三回くらい埋まってこい…」

「え、なんです?」

「なんでもない、コーヒーにすると言っただけだ」


しれっと言い放ちソファに戻ると、三成はカバンを開けて勉強道具を引っ張り出した。


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