現世乱武小説
お触り禁止令(左三)
「なるほど。それでこんな早くに帰ってきたわけですか」
「同じものを受けるのに俺があいつらより下だったら気に食わんからな」
「ははは、負けず嫌いですねぇ三成さんは」
「…ふん」
まだ昼をまわって間もない時刻にいきなりマンションを訪ねてきた三成に左近は苦笑を返した。
全教科の教材を持ってきたのか通学カバンははち切れんばかりにぱんぱんに張り詰めており、見るからに重そうなそれを受け取ってやりながらとりあえず中へと促す。
「よく学校からここまでこんな重いの持ってきましたね…」
三成の細腕でこれは相当こたえただろう。
しかし三成はリビングのソファに腰掛けるとカバンを掛けていたほうの肩をぐるりと回して軽く首を振る。
「学校から来る前に俺の部屋に寄った。そのときに詰めてきたから距離はそうでもない」
「ほう、ご自分のアパートに一度足を運んだのに左近のもとに来てくれたわけですか。嬉しいですな」
にやりとして言ってやるとすぐに焦りを含んだ否定が飛んできた。
「ち、違う!これは統計の結果だ!」
「統計?」
一体今度は何を言い出すのか。
左近が至って真剣そうな三成に訊き返すと、三成は自身の周りがペアを組んでいることからやる気を奮起させているのだという結論を導き出したことを語り出す。
しかしそれは……いや、まぁ間違ってはいないだろう。
切磋琢磨しているのなら二人でやることの有意義さはあって当然だ。
だがだからといって俺を選択することが三成さんのやる気を起こすことに繋がるかと訊かれれば微妙だ。
お互い磨き上げていくわけでもなく、あくまでも三成さん一人の戦いになることは間違いないだろうから。
申し訳なく思いながらも三成さんにそれを端的に話すが、三成さんは再び首を振った。
「いや、お前は傍にいるだけでいい。なんとなく…そのほうが落ち着く気がしてな」
僅かに目を逸らしてぼそぼそと言う三成に左近は思わず頬を緩めた。
「それはよかった。左近も常々同じことを思ってますよ。三成さんが近くにいないと寂しくてなりません」
「そっ、そういう意味で言ったわけでは…!」
「はいはい、大丈夫ですよ。左近はすべて判ってますから」
「〜ッ!へ、部屋は借りるからな!どうせたくさん余っているだろうっ」
「ああ、ここでやってもらって構いませんよ。俺が移りますから。必要なものがあったら呼んでください」
言いながら左近が荷物を三成が座るソファの足元に下ろすと、屈んだ体勢のままの左近の腕を華奢な手がおもむろに掴んだ。
左近は一瞬固まってからその手の主に顔を向けるが、腕を掴んだ三成本人が己の行動に一番驚いているようだった。
「あ……す、すまん」
聞き取るのもやっとな小さい声でぼそりと謝り、気まずそうに顔を背ける三成。
何がきっかけだったかは知らないが無意識だったのだろう。
ぱっと手を離し行儀よく膝の上に引っ込める様が可愛らしくて、左近はゆっくり三成の隣に腰を下ろした。
「…それは、左近もここにいていいってことですかね」
低く問いながらそっと三成側の手で相手の太腿に触れる。
「…い、いてもお前はつまらんだろう」
「ははは、お気遣い感謝します。ですがそこはご心配なく。」
撫で摩る動きから、手は太股をまさぐるようなそれになる。
相手の体に力が篭るのがよく判るが、左近は気付かないふりをして足の付け根に手を這わせる。
「お勉強が始まったら邪魔にならないよう見守ってますから」
「わ、判った…からっ」
我慢できなくなったのか三成が左近の手を引き剥がそうと身じろぐ動きに合わせて、逆に肩を押して体を開かせるとそのまま顔を近づけて唇を重ねた。
三成がびくりと硬直したのをいいことに、座ったまま距離を詰めて互いの足が密着するところまで腰を引き寄せる。
「ん……、ふっ…」
舌を捩込みいつもより乱暴に口内を暴くと、鼻から抜けるような甘い声が漏れて音のない部屋に響いた。
逃げて俯こうとする相手の顎を捉え、隙間も出来ないように深く唇を合わせて甘く舌を絡ませる。
「さこ…待、……っん、このっ…待て、待たんか!」
ぐいっと後ろ髪を引っ張られて仕方なく左近が唇を解放すると、三成は真っ赤に染まった顔で思いきり相手を睨む。
「ま、まだ昼間だ!馬鹿者っ」
「いつもと違う時間帯ってのもそそりません?」
「そそるかぁっ!!」
懲りずに三成のほうに手を伸ばすが、身軽にソファの上に立ち上がるとぴゅっと部屋の奥に逃げてしまう。
何もそこまで毛嫌いしなくても…
左近が諦めて手を下ろし苦笑しかけたとき、未だこちらを警戒している三成の口からとうとう厳しい言葉が発せられた。
「……テ、テストが終わるまで俺に触れるな。…いいな!」
「それは…無理です」
「無理でもやれ!命令だっ」
えぇー…
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