現世乱武小説
兼続の愛(左三)
*視点変更*
ヴヴヴヴ……ヴヴヴヴ……
「…またか」
内心舌打ちして、三成はシャーペンを置きテーブルの上で着信を知らせる携帯を心持ち乱暴に取った。
フリップを片手で開けようとしたが空回りしてなかなかいうことを聞いてくれず、周りに誰がいるわけでもないがどことなく恥ずかしくなって半ば自棄になりつつ両手で開く。
メールをあけて発信者を確認するなり溜息が零れた。
「…兼続。何度目だ、貴様…」
肩に何か重苦しいものがのしかかってくるような感覚に頭が沈む。
現在三成は、自分のアパートで久しぶりに一人の夜を過ごしていた。
冷房機具もろくに揃っていない部屋はむしむししていてとても快適とは言えないが、窓を開ければそこそこ風は入ってくる。
そこに扇風機が加われば朝夕は十分だ。
そんな中で三成はテーブルに教科書とノートを広げ、来週に控えた考査に向けて勉強していた。
が、兼続からのメールが尋常ではなくてそれどころではないのが実態だ。
毎回のことなのでその都度怒っているのだが、どうも学習してくれる気配がない。
「…明日あたりガツンと言ってやるか」
ちなみにメールを返信すると当然向こうもまた送ってきて続いてしまうため、三成は相手に一通も返していなかった。
それでもめげずに送り続けてくるあいつはある意味すごいと思う。
…まあ、嫌がらせで送ってきているということではないのだろう。
確認したがメールの中身はすべて俺の身体を気遣うものばかり。
考査だからといって食事は抜くな、とか。
睡眠時間はきちんと確保してやれ、とか。
こういった内容のメールに何も返さないというのも悪いのかもしれないが、いくら温かい文面でもこう頻繁にこられては十分に一度は携帯を開けなくてはいけなくなる。
流石にそれでは集中出来ない故の無視だった。
…それに、携帯ばかり気にしているとどうしても無意識にあいつからの連絡を待ってしまう。
今頃、馬鹿みたいに高級すぎる自分のマンションで一人寂しく仕事でもしているであろうあいつからの――
「………」
……。
いや、気にならんぞっ、これっぽっちも!
そもそも左近に気が散るから一人でアパートに戻ると言い出したのは俺ではないかっ
なのにこちらから何か連絡をするなど格好悪すぎる…!
…しかし、あいつもあいつで他人に気遣う節がある。
俺が邪魔されずに勉強したいと言ったからには向こうから何かコンタクトがくるとは考えづらい。
「くそっ…」
こんなことなら大人しく左近のマンションで勉強していればよかった。
空き部屋だってたくさんあるし、冷房も完備されている。
腹が減れば左近が何か作ってくれるし、飲み物だって運んでくれるだろう。
あのマンションの環境は最高に整っているのだ。
では何故わざわざここに帰ってきたかというと、単なる意地だったとしか言いようがない。
学生としての生活と左近の恋人としての生活にきちんとめりはりをつけたかった、そう言えば聞こえはいいだろうか。
とにかく学生であることの意地だ。
左近に依存してしまってはいるが本分はちゃんと熟せているのだと、外ならぬ左近に判ってもらおうとしての申し出だった。
ちらりと壁に掛かった時計を見遣る。
時刻は21時ちょっと過ぎ。
寝てはいないだろう。
「……」
携帯を両手で持ち、履歴のリストから慎重にひとつの名前を選択する。
さ、寂しくないか訊くだけだ。
軽い感じでかけて、少しだけ話してやったら切ればいい。
自分自身に言い聞かせ、通話ボタンをプッシュしようとしたとき。
ヴヴヴヴ…
「っ!!」
ちょうどメールを受信した。
びくりとしたが、同時に口元が緩んでしまう。
左近の奴…俺から電話をする前に寄越すとは流石だ。
浮つく気持ちを押さえ込みつつメールを開き、三成は数秒間微笑を浮かべたまま呼吸を忘れた。
「……。
…兼続の……兼続の屑がッ!!」
発信者は左近ではなく兼続。
期待が大きく外れ、停止していた感情を飛び越してイラッとする。
しかも内容は勉強にかまけて左近を蔑ろにしていないだろうななどというもの。
「貴様が今まさに阻止したのではないかっ…」
何も悪くない兼続に理不尽な罵声を浴びせ、兼続に
『この屑が。』
とだけ送り返してやった。
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