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現世乱武小説
満点だなんて言いません(小十佐)


小十郎と一緒に自分も勉強するつもりだったが、お前は今回は真田の復習に付き合ってやるだけでいいんだからじっとしてろとぴしゃりと言われ、佐助は渋々手を引いた。

だから、せめて優しい小十郎の役に立ちたくて。
古典の文法書とにらめっこする小十郎(殺気すら出ている気がする…)を部屋に残して佐助は綱元を探した。


あの人が俺に頼ってくれることなんて早々ない。…まぁ、向こうが年上っていうのも大きいのかもしれないけど。
いつも大将や旦那に頼られるときはまったく意識していなかったけど、あてにされるってすごく鼻が高くなる。

慣れない感覚がむず痒くて、同時に新鮮だった。












廊下を適当に歩きながら綱元の捜索を続けていると、ちょうどひとつの客室から丁寧な身のこなしで本人が退室してきた。


「あ。鬼庭さん、」

「ん…あぁ、あんたか。猿飛…だよな」

「お、もう覚えてくれたんですね」


恐らく布団を敷いていたのだろう。
見ている客は誰もいないはずなのに、なおざりにしないで礼儀を尽くすあたり流石はプロだと思う。


トレードマークの銀髪を揺らしながら歩み寄る綱元に軽く頭を下げ、いきなり本題というのも失礼な気がしてそっと口火を切ってみる。


「あのー、…今時間あります?」

「おう、一段落ってとこだ。なんだ、俺になんか用か?」

「鬼庭さん、なんかあったら言えって言ってくれたじゃないですか。早速でかなり申し訳ないんですけど…」


綱元は数回瞬きすると、言い澱む佐助ににっと笑ってみせた。
次いで頭に手が置かれたかと思うと豪快に髪を掻き交ぜてくる。


「わ、ちょ…」

「なーに顔色窺っちゃってんだ。年下くんは年上様にお世話になるべくしてあとから生まれたんだぜ?
言うだけ言ってみな。タダだし」


屈託なく笑ってそう言ってもらえると心が軽くなる気がする。
肩の力も抜けてなんとなくつられて小さく笑うと、盛大にぼさぼさになった髪を整えることもなく綱元の手が離れていく。


「実は…っていうのも変だけど、来週あたりに伊達の旦那 考査あるでしょ」

「考査……あー、そういやそんなようなこと言ってたな、オーナー」


手櫛で適当に頭を戻しながら切り出すと、綱元は面倒くさがることもなく腕を組んで真面目に耳を傾けてくれた。


「うちの旦那も学校同じで考査なんだけどさ……伊達の旦那に勉強教えてもらうってことになりまして」

「ほうほう」

「でも伊達の旦那も今の勉強ついてくの大変みたいなんだよね」

「あーオーナーももう高三だもんな」

「そこで、なんだけどさ」

「ん、なんだ?」


ここまで言えば判りそうなものだけどな…
と、こっちが捻くれちゃダメだ。ちゃんと言葉にして筋を通さないと。

相変わらずの屈託のない笑みはどうもこちらを試しているようには見えないが、佐助は少し居住まいを正して再度頭を下げた。


「伊達の旦那を介してうちの旦那に勉強教えてやってくださいっ」

「……え、いや、片倉がいるだろ」


返ってきたのはきょとんとした瞬きと間の抜けた台詞。
今までの勉強を小十郎が教えていたのだからそう言うのも当然だろう。

佐助はそのままの姿勢でそうもいかないのだと続けた。


「…小十郎さん、そろそろ内容的に厳しいって」

「……、なるほど。でも俺だって現役離れてから十年経つんだぜ?教えられるような脳みそ残ってねぇぞ」


綱元は苦虫を噛み潰したような顔で言うが、それでもきっと一番の適任はこの人なのだ。
綱元が無理なら家庭教師役は今回誰もいなくなってしまう。


「完璧じゃなくていいんです、赤点取らない程度に教えてくれれば…」

「……え、」


必死に食い下がると、綱元がぴたりと動きを止めた。
相手の様子が変であることに気付き佐助が顔を上げると、まるで肩透かしでも食らったようにぽかんとしている綱元が視界に入る。


「鬼庭さん…?」

「あ……わ、わりぃ。えーと?…つーことはあれか?満点狙わなくていいってことか?」

「満点っ?……、いやいやいらないですそんなのっ」


満点なんてそれこそ雲の上の話だ。
佐助自身、高校時代に満点なんて得意科目でしか取ったことはないし、それだって真面目に勉強していた最初の頃だけ。

ぶんぶんと頭を横に振る佐助を見るなり、綱元はあぁなんだそうなのかと一人ぼやくとほっとしたような微笑を浮かべた。


「赤点クリアするくらいならどうにかなるだろ。教科書とか借りていいか?」

「ま、まじっ?すっげ、やった!!こっちの部屋ですっ」


頼もしい一言に佐助の溜飲も無事に下がった。


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