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現世乱武小説
愛の言葉(小十佐)


すべてを聞き終わった政宗様の表情は、見ているこちらもつられるほど複雑な微笑に満ちていた。
ちらりと視線を奥にやれば、気の毒そうな成実殿と可笑しそうに笑いを堪える鬼庭が相変わらず盗み聞きをしている。


「…そんなに馬鹿なのか、あいつ」


驚きを隠せずにぼやく政宗に佐助が苦々しく返す。


「まぁ…やれば出来るんだけどさ、何せ一晩でやろうとするから…」

「…なんつーか……無謀だな」

「そこで、なのですが…政宗様」

「ああ、俺に出来る範囲のことならなんでもやる。好きな奴の苦しみを少しでも減らしてやりたいって想いはお前も一緒だろ」


神妙な顔でそう言う政宗様の言葉をぎこちない笑顔でなんとか躱わし、佐助に横目を投げる。
心の声を代弁されてしまったようで照れ臭かったが、俺の照れなど比べものにならないくらい佐助の頬は真っ赤だった。

口を半端に開いたまま絶句している。
常日頃、好きだのなんだのといった甘い睦言を言わないだけに新鮮すぎてお互い体に悪い。


「……おい、人が真面目に聞こうとしてんのに見つめ合ってんじゃねぇよ」

「まーさむね!水差しちゃだめだって」

「シゲー……だって酷くね、この疎外感…」


足取りも軽く政宗様の背中に取り縋るように抱き着いた成実殿。

まだ顔が赤いながらに佐助が政宗様の後ろに軽く頭を下げる。
そういえばちゃんと顔を合わせたことはなかったか。


「ど、ども…」

「佐助さんでしょ?政宗の従兄弟の伊達成実です、よろしくね」

「え、なんで俺様の名前…?」

「んふふー、噂は兼々ってね」


…俺と佐助の関係、もう完全に判ってるからな、あの人。
というか政宗様のあの台詞を聞いて気付かない者などいないというものだ。


「成実殿、鬼庭は…?」


知られたくない人物暫定一位を飾る鬼庭にも、あれは聞かれていたはずだ。
しかしつい先程までドアの影に隠れていたというのに見当たらない。

こちらの質問に成実は困ったように笑ってみせた。


「ショックだったみたいよー…かたくーと佐助さんのことが」

「ショックったって…綱元なんかピュアでもなんでもねぇじゃん」


背後を振り返る政宗にそのはずなんだけど、と成実は難しい顔をした。
要するに原因不明らしい。

…あーくそ、次に会ったときどんなこと言われるか判ったもんじゃない。


「…とりあえず政宗様、本題に戻してもよろしいですか」

「ん、そうだったな。俺は何すりゃいいんだ?」

「真田に、英語を中心に勉強を教えていただきたいのです」

「え……俺が?」


政宗が驚くのも無理はない。
自分も教えを乞う立場だというのにどうして人に教えられよう。

その政宗の疑問を判っていながら、小十郎は頷いた。


「何も心配召されるな。政宗様は学校にいるあいだ真田についていてくださればよいのです。ご自身のお勉強は小十郎にお任せを」

「んー…それだけなら別に構わねぇけど……つーかそんだけでいいのか?」

「いや、ちょ……待った待った」


今まで大人しくしていた佐助が瞳を曇らせて話に割って入ってきた。
…外ならぬ佐助に反対されることは想定済みだ。


「うちの旦那のことで伊達の旦那にまで迷惑かけらんないよ!」

「俺は迷惑だなんて思わねぇよ。小十郎に教えられたことを幸村に教えりゃいいんだろ?
寧ろ復習にもなって好都合だ」


そう。
俺の狙いもそこにあった。
人に教えなくてはならない立場になれば、否が応でも理解しなくてはならない。
そして、迷惑をかけてしまっていると思わせることで真田もその義に報いようと必死に覚えようとするだろう。
そうすれば佐助への負担も軽くなるし、政宗様のためにもなる。


「政宗の勉強だったらオレも一肌脱ぐよ」

「お前中卒だろ」

「じゃあつなもっちゃんが一肌脱ぐよ」

「あいつ毎晩女で忙しいんじゃねえの?」

「それが最近はそうでもないらしくってさ」

「そうなのか?」

「うん、オレが思うに…」


何やら話し込んでしまった政宗様と成実殿に背を向け、未だ冴えない顔のままの佐助の髪を軽く掻き回した。


「そういうことだ。たまには甘えろ」

「……ほんとにいいの?旦那…すぐ寝ちゃったりするんだよ?」


余程こちらに悪いと思っているのだろう。
だが、だからこそなんとかしてやりたくなる。


「俺が好きですることだ。それともお前、政宗様が同意してくださったことを白紙に戻す気か?」


若干威圧的に言うと、ようやく佐助は小さい笑顔を見せた。


「…ありがと。小十郎さんってこっちが気負わないようにする言い方、上手いよね。そういう気遣かってくれるとこ……俺様好きだよ」

「好っ…?お、まえ……いきなり何…」


思いもよらない事態に口をぱくつかせていると、後ろから政宗様と成実殿が妙なテンションで体当たりよろしく抱き着いてきた。


「こーいうときは俺も好きだって言うもんだろ小十郎〜!」

「もー熱いー!」

「ちょ、あの…」

「愛してるぜ、お前だけだ……とか言っちゃっていいんだぜー?」

「しーびーれーるーっ!もう好きにしてっ」


……。
なんの話をしてここまで盛り上がってるのか知らないが…


「佐助……あとから俺も行く、いつもの部屋行ってろ」

「りょ、りょーかい…」


佐助を先にこの場から避難させる。
ぴくぴくとこめかみに走る血管が主張をはじめるのが確かに感じ取れる。


「部屋だってよシゲ!!…今夜は寝かせねぇ」

「いいわ…この逞しい腕で好きなだけ私を愛してっ」

「……お二方、失礼」

「お、」「え、」


ゴキッ ゴキュッ


久しぶりのヘッドロックニ連続だったが、衰えてはいないようだった。


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