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現世乱武小説
影の功労者(小十佐)
*視点変更*





「え、もう始めんの?今日からっ?」


旅館に佐助を持ち帰り、車から降りるとひっくり返った声が飛んできた。


「一週間前なんだ、詰め込むには頃合いだろう?」


鍵をかけて裏口に足を向けながら、追いかけてくる佐助に逆に問い返す。


話の内容はもちろん来たる考査に向けてだ。
長年積み重ねてきた経験から、政宗に勉強を教えるのは本番の一週間くらい前からがちょうどいいということを学んだ。

余裕をもって二週間前というのも試したことがあったが、当日までの期間が中途半端にあるため危機感を覚えず、あまり打ち込もうとしなかったのだ。
かといって一週間をきってしまえば、焦ってしまい身が入らない。下手をすれば投げやりになってしまう。


「付け焼き刃だから少ししたら忘れちまうだろうがな」


進学させるならそれはまずいだろう。
しかし政宗はここのオーナーだ。言い訳地味てしまうかもしれないが、高校で習うことは必要としない世界。赤点を取らなければいいのでは、と思う。


裏口のドアを開けて佐助を先に中に促すと、足を踏み入れながら半分だけ顔を振り返らせてふっと笑われた。


「…うちの旦那、前の日に全部叩き込んでるよ」

「一夜漬けかよ…」


…究極のその場しのぎだな。
真田らしいといえば真田らしいが、よく複数の教科を一晩で覚え込めるものだ。

毎回それに付き合わされているのであろう佐助に、労いを篭めて言ってやると渇いた笑い声が返ってきた。


「…覚えきれるわけないんだよね」

「……あ?いつも一夜漬けで乗りきってんだろ?」

「乗りきれてないからいつも赤点なのよ。…どの教科も」


力無く微笑む佐助に俺は首を傾げた。


「でも進級してるじゃねえか。フケたことはないだろ」


赤点ばかり取っていたら長曾我部のように留年するはずだ。
真田についてはそんな話聞いていない。

意味がいまいちよく判っていない俺のほうを佐助は振り返り、苦労が滲み出た目をすっと細めた。


「…補習行かせてるから。そっちをクリアすれば留年は免除なんだ。チカちゃんはそっちもサボってたからねー…」

「……なるほど」


テストの度に相当手を焼いているのだろう。
普段から佐助からは苦労人オーラが出ていたが、今は日頃の比ではない。
さすがに恋人のこんな姿は見ていたくない…


…よし。
出来ることは少ないだろうが、俺からもなんとか真田にアプローチしてみるか。


「…判った。政宗様にもご協力していただこう」

「……え、」

言われたことが呑み込めなかったのか、数度瞬きをしてから佐助は勢いよく頭を振った。

「やっ、あの、別にそういう意味で言ったんじゃなくてっ…」

「だろうな。お前の性格は判ってるつもりだ。
安心しろ。英語は政宗様に任せておけば間違いねぇ」

「でもそれじゃあ伊達の旦那がっ!」

「Hey,俺がどうしたって?」


事務所の扉を開けて頭を出したのは、噂をすればなんとやら、群青色の羽織を着た政宗様だった。

頭を下げる俺の横でしどろもどろする佐助に、政宗様が言及するような眼差しを向ける。


「裏口とはいえ、館内で痴話喧嘩ってのはいただけねぇな?」

「喧嘩っていうかさ…」

「政宗様、折り入って頼みがございます」


顔を上げると、事務所から鬼庭と成実殿がこちらを見守っている様子が視界に入った。
あいつら……心配が一割で九割は興味本位だな。

二人を意識の外に追いやって、改めて政宗に向き合うと主は意外そうに目を見開いて口元に笑みを乗せた。


「お前からの頼みなんて珍しいじゃねえか。どうした?」

「は…。実は来週の考査のことですが、」

「あぁ、今日から早速ってんだろ?大丈夫だ、ちゃんとやる」

「さすが、判っていらっしゃる。ですが今回は…真田のことでお願いがございます」

「Ah?幸村…?」


佐助が居心地が悪そうに控えている傍で、今しがた聞いた幸村のこれまでのテストに関することを政宗にすべて伝えた。


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あきゅろす。
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