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現世乱武小説
グーは痛い(左三)


いやぁ参ったね…


怠い動きたくないと駄々をこねる三成を風呂に追いやり、シーツを洗濯機に放り込んで着替えも適当に済ませる。
風呂に行くまでの片付けを一通り終えてリビングのソファに体を沈め、左近は長い溜息をついた。


鼓膜には未だ情事の最中の三成の声がこびりついている。


「……よく最後まで堪えた、俺」


独りごちて天井を仰ぐ。

何度途中で達きかけたことか…
危うく挿れる前に出してしまうところだった。


今まで何度か肌を重ねたが、あれほど求められたことがあっただろうか。
いくら久しぶりとはいえ、まさかあの綺麗な顔を歪ませて「もっと」なんて言われる日がくるとはさすがに予想していなかった。

…まぁ、俺が三成さんにそんなことを言わせるくらい追い詰めていたのも確かだが。


「……」


寂しかったかと訊ねたとき、あの人は涙を滲ませながら肯定した。
世辞を言うようなタイプではないし、もしそうだとしてもあの状況では余計なことなど考える余裕などないだろう。

つまり、どちらにしろ寂しかったというのは本音なのだ。

無意識に言ってしまったのだろうから本人は覚えていないかもしれないが、三成さんの答を聞いたとき、改めて俺は自分の取った行動を後悔した。


別段他意はなかったが、三成さんを一人残して他県に行くということを黙っていたのは事実だ。

俺はあの人の日常に後付けされた存在だから、数日離れるくらい向こうはどうも思わないだろうと踏んだ。ただ明日の予定くらいは伝えておかないとという義務感から、前日に報告したのだ。


…だが、その考えは間違っていた。
結論から言えば真逆だ。

俺が黙っていたことを三成さんが怒ったのは、きっと己を軽視していると捉えた結果。
それでも、あの人は自ら解決しようと動いてくれた。

それを大きな成長だと感心すると同時に、誰よりも俺自身が一番三成さんを子供扱いしていたことに気付いた。
保護すべき存在だと固定していた。


そんな扱いをされていたら大人になるものだってなれないというもの。


…無人島なんて一緒に行ったら、また甘やかしちまうかもしれないな…

三成さんは俺と行くことを喜んでくれているが、俺としてはせっかく大人になろうとしている三成さんの進路を阻むことはしたくない。


「あー…まさかこの歳で人間関係でこんなに悩むとはなぁ」

「お前にも悩みとやらがあるのか」

「え…ぎゃあ!いつの間に上がったんですかっ」


悶々と考えていて気付かなかったらしい。
シャワーを浴び終えた三成さんがリビングの戸口に寄り掛かって立っていた。

驚くこちらを尻目にテーブルを挟んで俺の正面になる位置のソファに座る三成さん。


「…あー、っと……腰の具合はどうです?」


どことなく慎重に足を運ぶ相手の様子を見兼ねて訊ねると、ものすごい眼光が返ってきた。


「歴代一位だ」

「……そ、それはそれは…」


引き攣り笑いで射殺さんばかりの視線をやり過ごす。
久しぶりとはいえ、やはりやりすぎてしまったか。


「あとでマッサージでも

「断る。」

むすっとした顔をしている三成だが、その実照れているであろうことがその赤さに出ている。

そしてそれに呟くように、ぼそりと続けた。

「…覚悟は、していたつもりだ」

「え、」


思わず訊き返してしまうと、三成さんは乱暴に首を振ってなんでもないと言い切る。
聞き取れなくて訊き返したわけじゃない。
ただ、まさこの人がそんなことを言うなんて、と驚いただけだ。

だが三成さんの機嫌を損ねるには十分すぎたらしく、さっさと話題を変えられてしまった。


「…前にあの男の――慶次の話をしたこと、覚えているか」

「? ……いえ、すみません、なんでしたっけ?」


記憶の糸を手繰り寄せてみても、慶次などという名前ははじめて聞いた気がする。
更に不機嫌にさせてはこっちが堪らない と恐る恐る謝ってみたが、三成さんはひとつ小さく頷いただけで危惧していたようなことはなかった。


「名前は出さなかったからな。それに随分前だ。…アテがあるとかないとかの話をしただろう」


アテ…?

――それはアテがあるってことですかね

――なくはないな


「…ああ!はじめて三成さんを達かせたときの話ですね。覚えてますよ」

「……………左近」

「はい?」

「…グーで殴っていいか」

「……いや、それはちょっと…」


.

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