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現世乱武小説
思いは一緒(左三)


学校に到着しても助手席から降りようとしないどころかシートベルトすら外そうともしない三成に、慶次が小首を傾げて不思議そうに数回瞬きした。


「三成?行かねぇの?」

「ん、あぁ…俺は…」


車に乗った時点で既に一緒に行く気だった慶次からすれば、確かにそう訊ねるのは必定…。
きっとそう言われるだろうと予想して、ここに着くまでの短い間に休むことへの言い訳を考えてはいたものの、制服を着てしまっている以上どうとも逃げられない。

どうする…?
このまま登校してもかばんの中身的には問題ない。
だが、そうなれば左近との時間が持てなくなってしまう…


「そういえば三成さん、昼飯買うの忘れてましたね。」

ぐるぐると考え込んでいると、思い出したような口調で左近が言った。
救われた気分で振り返ったこちらに向けられる優しい表情に、思わず胸が熱くなる。

「今からでも間に合います。そのへんのコンビニ寄りましょっか」

「そっか、うちの学校って学食とかないからねー…。じゃ、俺先行ってるわ。
島さん、送ってくれてありがとね。俺そんないい車はじめて乗ったよ」

「ははは、そいつはよかった。んじゃー飯買いに行きますか」

「あとでな、三成!」

「…ああ」


片手を挙げてかばんを肩に引っ掛けると、慶次は校舎のほうに足を向けて歩いていった。

なんだか悪いことをしてしまったような気もしなくはないが…
その長い髪が揺れる後ろ姿を眺めている左近を横目で見遣り、半ば呆れたような溜息をついた。


「…お前の口の上手さは営業マン並だな。職選び間違えたんじゃないのか?」

「そんなに褒めないでくださいよ。俺だって必死だったんですから」

「……必死?」


困ったように笑って車を発進させつつぼやく左近に訊き返す。
必死だったのは俺のほうだ。一体左近が何に必死になるというのか。


「久しぶりに三成さんと一日いられるってのに…危うく学校行かせるとこでしたからね」


そりゃ必死にもなりますよ。

その言葉に、胸が満たされていくのを感じる。
気恥ずかしくて顔に熱が集中するが、それ以上に身体が火照っている。

左近も二人だけの時間というものをちゃんと大事に思ってくれているのだと。
こちらからの一方通行ではなかったのだと。

それが判っただけで、ひどく安心した。


「俺の部屋行きますけど……いいですか?」


甘い甘い誘いの言葉。
行って何をするかが判らないほど、俺はもう鈍感ではない。


「…構わん。俺も……行きたいと思っていた」

「――、…それはよかった」


俺の懸命な言を受けると、左近は本当に安堵したように肩の力を抜いてにこりと笑った。


ずっと浸っていたいとも思えた甘く柔らかな雰囲気だったが、そのあとに俺がうっかり訊いてしまった謙信の頭事情の話題のおかげで車中の空気はがらりと変わったのだった。


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あきゅろす。
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