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現世乱武小説
数日ぶり(左三)


微かに車体が揺れたような気がして、左近はまどろみから引き戻された。

腕をずらして薄く目を開けると夏ならではの強い朝日がダイレクトに眼球に突き刺さり、反射的に再び腕を翳(かざ)す。


…仮眠するつもりだったんだが……だいぶぐっすり寝ちまったな。


三成のアパートの前に着いたのは、もう太陽が顔を出そうかという時分。
確実に熟睡しているであろう三成を起こしてしまうかもしれないと踏み、電話やらメールやらはせず7時頃――三成が学校の支度をしているくらいの時間帯だ――に顔を出そうと待機していたはずだったのだが…


鋭い日差しに目が慣れてきた頃、自分側のドアに影が落ちていることに遠巻きながら気付き、のそりと体を起こした。


「……え、…三成、さん?」


呆然と呟き、こちらを背に寄り掛かっている赤茶の髪の人物を凝視する。

慌てて時計を見遣れば、既に8時半をまわっていた。

今から徒歩では始業に間に合わないが、車でなら大丈夫だ。


ドアや窓を開けることは出来なかったので、左近は窓をこつこつと叩いた。

俯けていた顔をはっとしたように持ち上げ、その綺麗な顔がこちらに振り向く。
同時に体がドアから離れたことを確認すると、左近は窓ガラスを下ろした。


「すみません、三成さん…。つい寝入っちまったみたいで…」

「いい。…どうせ寝ずに帰ってきたのだろう。目の下に隈を作られるよりマシだ」


そう言いながらも目を逸らして若干頬を赤らめている。
おそらく俺の睡眠を邪魔しないようにと気遣って待ちぼうけしていたのだろう。
…可愛いことをしてくれる。

こっそり笑うが、すぐに気持ちを切り替えて左近は座席の背もたれをもとに戻しながら窓の外に声を投げた。


「俺のせいだってのにこんなこと言うのもなんですが……学校、まだ間に合いそうです。送っていきますよ」

「…いや、」


現在地から学校までの経路を頭の中に描いていると、三成が短くぼそりと零した。


「……?」

何を否定されたのか一瞬理解出来なかったが、ばつが悪そうに口篭っている様から察するに…

「…学校、休みたいんですか?」

「う……わ、悪いかっ!」


にやりと口角を上げて訊ねると、馬鹿にされたと思ったのか三成は憮然として声を荒げた。

顔を赤くしながらのその反応が可愛らしくて知らず眉尻が下がってしまう。


「いえ、たまにはいいと思いますよ」

「……それに…」

「はい?」


必死に顔を背けている三成にはこちらのだらしない表情はばれていないらしい。
依然としてふて腐れたように、むすっとしつつも言葉を続ける。


「…久しぶりにお前に会えたのだ。学校など…行っている場合ではないだろう」

「…え」

「俺が無茶な我が儘を言ったがために…見送りも出来なかった。お前に嫌われたらと思ったら…
……すごく、怖くなって…」


…ちょっと待て。
いや、いっそのこと時よ止まれ。

なんなんだ、この可愛い三成さんは。
そんなことを溜め込んでいたのか?
うっすら涙なんて浮かべて…


「…でも、電話に出てくれたから……ほっとした。…本当に嬉しかった」

「三成さん…」

「それでお前が帰ってきたと判って…通り過ぎて学校なんぞ行くと思うかっ、この俺が!」


最後のほうは逆ギレっぽくなっていたが、これは恥ずかしさを紛らわすための演技にすぎない。

ああ、なんでこんなにこの人は可愛いんだろう。
耳まで赤くして…


不意に窓から手を伸ばし、三成の手をくんっと強く引く。


「わ、こらっ さこ…!」


焦って抗議の声を上げる三成さん。
バランスを崩し、引き寄せられるまま前のめりに倒れ込んでくるのをいいことに、相手の首の後ろを固定して盗むように口付けた。

唐突な行為に三成は目を見開いたが、そんなことは気にしない。
数日ぶりの口付けをたっぷり堪能しないと…


深く、深く。

角度を変えて、怯える舌に己のそれを絡み付かせる。


「…ん、」


鼻から抜けるような甘い喘ぎに体の内側を焼かれそうになったとき。


「ああああ!!!」


「っ?」「!!」


遠くから大声が飛んできて、揃ってびくりと肩を跳ねさせた。


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