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現世乱武小説
早く起きて(左三)


平板な電子音に脳を揺さぶられ、三成は低く呻きながら枕の上に手を振り下ろした。

たんっ、という小さな音を残して目覚ましが鳴りやみ、二度寝しないようにとベッドの上で丸くなったり伸びたりを繰り返して体を起こす。


自分の部屋で一人で寝たのは何日ぶりだろう。
寂しくて寝付けなかったりしたらどうしようなどと内心不安だったのだが、思っていた以上にぐっすり眠れてしまいなんだか拍子抜けしてしまう。

寝ぼけ眼のまま携帯のフリップを開きメールや電話がきていないか確認してみたが、待ち望む名前はどこにもなかった。


「……準備、しないとな」


今日も普通に学校だ。
落ち込む気持ちを立て直し、のそりと起きてカーテンを開け放つ。
既に夏と言ってもいいこの季節にもなると、起床時間には暑苦しい太陽がそこそこ高くまで昇っている。

たまには昼間のうちに洗濯物を干してみたいものだなどとしみじみ思いつつ、寝室を後にしてキッチンに向かいヤカンに火をかける。


…朝はどうも何か作ろうと思えない。

まぁ昼も夜も進んで自炊しようとは思わないが。


何が残っていただろうかと戸棚をいろいろ物色した結果、本日の朝食はインスタントラーメンに決定した。
…胃もたれ?ふん、知ったことか。若さをなめるな。

なにかを調理したりする手間を考えれば、胃の不調など安いものだ。


自分自身にそう言い放ち、手早くラーメンを作り早速食べはじめる。
…左近が帰ってくれば一人でこうして食べることもなくなるのだ。

そんなことを考える度に視線は携帯電話へと向けられてしまう。
いつ帰ってくるのだろう。早く戻って来ては欲しいが、無理はさせたくない…

その思いが、こちらから左近に電話をかけることを躊躇わせていた。


……まぁ、考えても仕方ないな。


残りのラーメンを啜り、水で一気に流し込む。

だが、割り切ったつもりでもすぐに頭の中は左近のことでいっぱいになろうとするので、三成は考える暇を作らないよう忙しなく学校に行く準備を進めた。








やはり朝からラーメンはさすがに重かったか…


後悔したところでもう遅い。

部屋を出て、階段を下りながら三成はもたれる腹を持て余していた。


…学校に着く頃までにはどうにかなるか。
ああくそ、階段なぞ関係ない一階の部屋を借りればよかった。


気持ち悪さを堪えてどうにか階段をすべて下りたとき、視界の隅に左近の愛車とよく似た車が映った。

こんなもの、早々お目に掛かれるものではないと思っていたが…
似ているも何も、これもグレーのセンチュリー。左近の愛車と同色同形。
世の中、金持ちというのはそれほど少なくないようだ。

淡々とその車の脇を通り過ぎてから、ぴたりと足を止めた。


「……」


…あれ?

左近と同じ車が俺のアパートの前に停まっている。

これって…


もしかしなくても、左近の車なんじゃないか?


無関心で静まり返っていた心の中がざわざわと蠢きだす。

期待を隠しながら、三成はちらりと車のほうを振り返った。
朝日がフロントガラスに反射してしまい、運転席がちょうど見えない。

もし見知らぬ人が乗っていたらという一抹の不安もあったが、そんなことを深く考える余裕もないほど胸は高鳴っていた。


運転席の横まで後退し、覗き込むようにして顔を近づけると…


「……?」


一瞬運転席がないのかと思ってしまった。

しかしそんなわけはなく、単純に後ろに背もたれを倒しているだけらしい。
そしてそこに横になっていたのは、紛れも無く己が連絡を待っていた人物。


「……さこん…ッ」


咄嗟に窓を叩こうとして、なんとか堪えた。
見れば左近は片腕を目の上にのせて眠っているようだった。

…今ここにいるということは、昨日の夜のうちに仕事を終わらせて帰ってきたということ。
きっと睡眠など取れなかったのだろう。
本当に…優しいな、お前は。


起こしたくなくて、でも起きて欲しくて。
三成は学校に行くことをやめ、そっと運転席側のドアに寄り掛かり左近が自ら目覚めるのを待った。

胃もたれなど、いつの間にか忘れていた。


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あきゅろす。
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