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現世乱武小説
やっぱりまずは(左三)
*視点変更*





出る時間が遅かっただけに高速道路は極めてスムーズに流れていた。

とはいっても関東圏に入った頃には既に日付も変わる頃で、さすがにこの足で三成のアパートに押しかけるのは気が引ける。
今夜は自分の部屋でゆっくりしようと、マンションに続く方向へとウィンカーを倒すがすぐに左近は思い直して逆に倒した。
そのまま矢印に従ってハンドルを切り、線を引いて過ぎ去っていく街灯や町明かりを視界の隅に映しながら車を進める。


迷惑かけたことに変わりないからな…
挨拶は必要だろ。


そう思って到着したのは旅館"竜の住み処"。
平日だというのに客のものと思われる車が三台も停まっている。

これなら支配人たる小十郎は確実にいるだろう。


車を適当に停め、真夜中といっても相違ないなりにこっそり引き戸を開けて中に入る。
無人のカウンターの奥に伸びる通路に面した事務所から淡い光が漏れているのを認めると、カウンター上の呼び鈴を通り過ぎて中に足を進めた。


閉まった事務所の扉の前で耳を傍立ててみるが話し声らしきものは聞こえない。
しかし電気はついているのだ。客もいるし誰もいないことはないだろう。

万一仮眠でもしていたら悪いと思い慎重に扉を開けると同時に、事務所の奥の扉がカチャリと開いた。
思わず閉めてしまいそうになりつつ、入ってきた人物を認識するとなんとか踏みとどまる。

普通に事務所のデスクに座っていた髪の長い女が、両サイドから開いた扉に目を白黒させていた。


「し、ま…?」

「…ども、お邪魔してます」


奥の扉は従業員用の風呂がある。
ちょうど湯上がりだったらしく、タオルを首にかけた小十郎が驚きを隠せないといった風にぽかんと口を開けていた。


「えーと……いらっしゃいませ、でいいのかな?」

「今の声…? ……あ、あんた男ですかっ?」


音もなく侵入したこちらに苦笑気味にかけられた声は明らかに男のもので。
女だと思っていた従業員はどうやら男だったらしい。
……よく見りゃ確かに胸がないな。

しかしなんというか、漆黒の髪に通った鼻梁。男にしては白い肌…
なんとなく政宗に似ていなくもない気が…


「お前…、いつ山形から戻った?」


髪の長い男を見て首を傾げるこちらに小十郎が声を投げる。
思い出したように顔を上げて軽く笑い、ついさっきですよと返してやる。


「時間も遅いんで、三成さんのとこは迷惑かと思いましてね」

「…それでここに直帰か。石田には遠慮しても俺にはしねぇとはな」

「あ、やっぱり電話入れたほうがよかったんですかね」

「当然だ。私情なら尚更だぞ」


まぁ本当は連絡入れるなんて選択肢、思い付きもしなかったんだが。

小十郎はタオルで濡れた頭をがしがし拭いながら溜息をついた。


「……どうせ仕事が終わってすぐ飛ばしてきたんだろう。疲れてんならいつもの部屋で寝とけ」

「いえ、今日はお詫びに来たんですよ」

「詫び……?」

ぴくりと小十郎の眉が跳ね上がる。
そしてすぐに不審そうに曇っていった。

「お前が……詫び?俺に?」

「……そんなに怪しまないでくださいよ。俺だって謝罪くらいしますって」


苦々しく言って、小十郎に向かって折目正しく腰を折った。


「今回の騒動、色々迷惑かけちまってすみません。無事もとに戻ったんで、その知らせに伺いました」


粗品なんてもんもありませんが、と付け足すと、小さく小十郎が笑った。
やれやれと言わんばかりのその微笑が自分に向けられることは珍しい。


「…それならもう聞いた」

「…聞いた?」

「ああ。石田が来てな。電話でちちくり合うなんざ恐ろしくて俺には真似出来ねぇ」


…電話でちちくり……合っていた覚えも別段ないが、大まかには伝わっているらしい。


だがあの三成さんが自らそれを話しに来るとは思っていなかった。
…本当に自分がいない短いあいだに成長したと思う。
実際に顔を合わせるのが楽しみだ。


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あきゅろす。
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