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現世乱武小説
おつむ事情(小十佐)


「……は?」


才蔵のこと、どう思ってる?


思いも寄らない質問に、自分の中の時間が止まった気がした。
なんの前振りもなしでいきなり何を訊くんだ…


ぽかんとするこちらに、佐助はドアに手をかけて真剣な眼差しを向けてくる。

…俺が霧隠に気があるとか疑ってんのか?
何か誤解させるようなことした覚えもねぇが…


「別に…どうも。ただお前の後輩で、政宗様の気の置けないご友人の一人ってだけだ」

「…それだけ?もっとなんかこう……煩いとか可愛いとかない?」


…佐助の奴、なに必死になってんだ?
やっぱり気付かないうちに自分が紛らわしいことでもしたのだろうか。

適当であることを基本スタイルとする佐助の珍しい様子に新鮮さを覚える反面、己の過去の言動を思い出す。
一向に思い当たらないまま記憶を遡りつつ、小十郎は逆に訊き返した。


「特別な感情は抱いてないつもりだ。
…いきなりどうした?」

「いや…小十郎さんがどうも思ってないならいいんだ。あとはあの子と俺様の勝負だから」


…どうも答になっていない。
しかし、佐助の安心したような緩んだ顔を見ると言及する威勢も出ず、結局その問いは諦めた。

代わりに新たに引っ掛かったところをつついてみる。


「勝負?……なんだ、果たし合いまだ続いてるのか」


半ば呆れたように言うと、ものすごく渋い顔が返ってきた。


「続いてるっていうか……始まってすらいないんだよね」

「…どういうことだ?」


確かに男どうし拳で語り合ったあとにしては佐助に怪我はなさそうだし、疲労の色もなく元気すぎる。

しかし彼らは今日ここで会ったはず…
話が見えずにいると、佐助がまたあの難しい顔をした。


「…なんか俺様もよく判ってないんだけどさ、才蔵が急に……棄権したんだよね」

「キケンって……棄権、だよな?腹でも壊したのか?」

「んー、そんな消化不良っぽくはなかったけど……いざ始めようってなったらいきなりだよ。怯えてたっていうか…そんな感じ?」

「……そうか」


確か昨日は才蔵が一方的に佐助に果たし合いを持ちかけていたような気がする。
それが腹痛でもないのに間際になって棄権とは…

ふむ、少しばかり不自然ではある。


「追いかけるのも悪い気がしてさ…」

「そこは正解だと思うぞ。心当たりがこっちに無い以上、みだりに距離を詰めようとしても相手を追い詰めるだけだ」


しかし、佐助はまるで犬か何かのように唸った。


「……心当たりね、無きにしも非ずっていうか…。いや、どうせ俺は何も出来ないんだけどさ」

「??」


ここまで曖昧な言い回しをする佐助は珍しい。
その心当たりとやらを明言しないということは、あまり俺に関与しないでもらいたいということの表れと取っていいだろう。


ならば無理に聞き出すこともない。
弟子たちの出来を確認してまわっている信玄が戻ってくるにはもう少しかかるだろうと踏んで、政宗から聞いた例のことを口にした。


「…真田から夏休みの話聞いたか?」

「夏休み?……なんにも。てか旦那の場合それ以前にテストがさぁ…」


うー、と頭を抱える様に思わず笑えてしまう。
抱える不安はどこの保護者も一緒ということだ。


「伊達の旦那って成績いいんでしょ?うちの子なんとかしてあげてー」

「政宗様は外国語なら文句ないんだが……そこばかりに脳の容量取られてて他がどうもな…」

「いやいやっ、得意なのが一個あるだけマシだから!俺様現役離れたはずなのに全然そんな気しないし…
…って、あれ?もしかして小十郎さんも…」

「……そうだ。十年前の引き出しを開けるんだ、いい加減破裂しそうだぜ…」


同時に重苦しい溜息をつく。

あぁ、政宗様に夏休みがあるかどうかは俺の教え次第ということを忘れていた。
補習と追試まみれの高三の夏なんて切なすぎる。


「…とりあえず……二人がテストをクリアしたことにしよっか」

「…ああ。いや、だが俺からは言わねぇほうがいい気がしてきた…」


目を逸らしてぼそりと言うと、当然佐助はなんでと訊ねてきた。

勿体つけているわけではない。
ただ、才蔵のことやテストのことでいっぱいいっぱいな今の佐助に話すには少々きついと思う。


「やっぱり真田から聞くのが筋だからな」

「えぇーー…なんかすんごい怖いんですけど」


それだけ心の準備が出来てりゃ大丈夫だ、と笑ってやると、佐助は感慨深げに遠い目をしておそらく本音を零した。


「……俺様、ニートになりたい」


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