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現世乱武小説
心配性炸裂(小十佐)


ふっ、と小十郎の目元に影が落ちてオーラが変わったことを、政宗は肌で感じ取っていた。

だからこいつには言いたくなかったんだとでも言いたげに顔を苦渋に歪める。


「…無人島」

「あのー…小十郎?」

「そんなところ…遊び半分で一週間も滞在するような場所じゃねぇぞ…」

「…おーい、小十郎ー…」

「しかも長曾我部の誘いとくればたいして信用も出来ねぇ……いや待て、あいつだけってことはないだろう。他の面子は…」

「……。こじゅーろー!」

「政宗様ッ!」

「わっ、え?はい!!」


鋭い呼びかけに脳を揺さぶられたような感覚を覚え、政宗はびくりと肩を跳ねさせて綺麗な気をつけの姿勢をとった。
危うく敬礼しかけたが、なんとかそこは押しとどめる。


「長曾我部の他に行く者は?」

「も、もちろんいるぜ?…えーと、幸村と三成と、たぶん兼続と……元就もかな」

「……」


……しっかりしていそうな顔が見当たらない。
それこそうちの政宗様が一番頼りになるのではなかろうか。
いや、だが石田が一人で行くとも考えにくい。もしかしたら島を引き連れて、という可能性も零ではない。

そうなってくれれば島に任せられるが、下手をすれば石田共々辞退してしまうかもしれないのだ。

…残るは四国の馬鹿と熱血猪と空回り義士、そして暴君女王。
そんな連中に政宗様を任せられるわけがない。


「…こ、小十郎?…俺の言葉に応えたいって言ったよな?言ったばっかりだよなっ」

「……」

「今更やっぱりダメとかなしだからな!」

「………やれやれ」

必死に食い下がる政宗に対ししばらく険しい顔をしていたが、不意に小さくそう零して小十郎は片手でこめかみを強く押さえた。

「出来ることなら私もついていってしまいたいところですが……そうもいかない。くれぐれも、無茶のないようお願いしますぞ」


溜息混じりのこちらの言葉を聞くなり、政宗の顔にぱあっと笑顔が広がっていく。

…そんな風に喜んだりするから、つい危険と判っていても甘くしてしまうのだ。


「Thank you,小十郎!お前頭固いし禿げるくらい心配性だからよ、言ったら絶対却下されるって思ってたんだ」

「禿、げ……!」

「でもちゃんと言ってよかった!やっぱ俺の右目は小十郎だけだぜっ」

「……勿体なきお言葉」


心底安堵したように肩の力を抜く政宗。
しかし無邪気なその口から出てくる思わぬ台詞に小十郎は引き攣った笑みを浮かべるのに精一杯だった。


「そういや佐助、今日果たし合いだってな」


思い出したような政宗の声が、複雑な心境だった胸の中にぽとりと落ちる。
言われてすぐには理解が追い付かなかった。


「果たし合い…?」


果たし合い……はたしあい……
はて、つい最近聞いた単語のような気がするが…一体なんだったか。


合点できていないこちらを見兼ねて政宗が知らなかったのかと瞬きをする。


「今日で仕事終わるから、霧隠が佐助に果たし合い申し込んだらしいぜ?」

「……ああ」


そういえば昨日、別れ際にそんなような話が出ていたような記憶がなくもない。

…というか本気だったのか、あれ。


「ま、どうせまた佐助の勝ちで終わるんだろうけどよ」

「果たし合いというのは…どういったことを?」

「んー、普通にケンカっぽいときがほとんどだな。…たまにトランプとかかくれんぼとかやってたぜ」


トランプにかくれんぼ…

学生ならではの可愛いげのある遊びだ。
しかしケンカとなると少し事情は変わってくる。


…つまり。
佐助がケガをするかもしれない、ということだ。


あの白く滑らかな肌に引っ掻き傷でもできたら、どんなに痛々しく映ることだろう。
数年前まで散々危険な場に身を置いてきた己が思うのもなんだが、あいつが傷ついているところなど見たくない。

自然と、手に力が入っていた。
握り込んだ手の平に爪が突き立っている。


「…政宗様」


普段より低い声音になってしまったが構わない。

呼び掛けると、政宗はそうくると思ったとばかりににっと笑った。


「客のことは俺やシゲたちに任せとけ。たぶん現場の駐車場かなんかでやってると思うからさ」

「…申し訳ございません。すぐに戻ります故」


小さく頭を下げて羽織りを脱ぎ、心配性の代名詞は車の鍵を引っ掴んで旅館を出た。


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あきゅろす。
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