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現世乱武小説
果たし合い(小十佐)
*視点変更*





「はーい、みんなお疲れ様。しばらく休み取るからゆっくり疲れ取ってねー。決まり次第早めに連絡入れるからさ」


じゃあこれで解散!

佐助の陽気な号令に、メンバーたちは各々帰り支度をはじめた。

本当は打ち上げなどをして慰労会でもしたいところだが、金もかかるし時間も取らなくてはならないという理由で信玄の頃より宅飲み主義を取っていた。
そのためしないのは暗黙の了解となっている。


…だが、今回だけは俺としては打ち上げをしたかった。
もちろん初めて指揮を任された棟梁祝いとか、慣れない才蔵への歓迎会とか、特別だから中身を温めたいわけではない。
寧ろそういったものは面倒だと避けたいくらいだ。


だけど今回は。
今回だけはこのままフリーになったら…


「猿飛殿。判っているな?」

「え……あはは、いやぁ…はは」


き、きなすった…

腕組みをした才蔵が眼前に立ちはだかる。
それをやり切れない笑顔で受け止めてみるが、はぐらかせそうにない。



果たし合い。



忘れてたらいいなぁなどという甘い願望は見事に散った。
高校にいた頃はあの一年間のあいだに何度これをすっぽかしたことだろう。
断るのも面倒だし、とりあえず受けておいて約束の時刻になっても行かなかったことが多々あった。

…まぁ結局何度か繰り返すうちに果たし状なしで唐突に勝負に持ち込むというパターンを才蔵が覚え、後半は散々相手をさせられたのだが。


「やっぱり…やるんだ?」

「当然だ。男が廃るぞ」


思わず溜息が出てしまう。
くだらないことをしているんじゃない、というお叱りの言葉を頂こうとかすがを見遣るが、既に荷物をまとめ帰る気満々のご様子。
きっと謙信とかいうオトコオンナに会いに行くのだろう。周りが薔薇で溢れている。

小太郎はというともはや影もなく。

ああ……解散とか言わなきゃよかった。


今更後悔しても遅い。
こうなりゃとっとと終わらせて不貞寝してやる。


「…む、やる気になったか、猿飛殿」


上体の作業着を脱ぎ、インナーだけになったこちらを見て才蔵は嬉しそうな声を上げた。


「まぁね。やんないと帰してくれないでしょ」

「腑抜けてしまった猿飛殿のためなればこそ。手加減したら明日もやるぞ」

「う……読まれてたか」


早く終わらせるためにもさっさと負けてしまえばいいと考えていたのだが…
この子もこの子で俺というものを判っている。

でもま、最近身体も動かしていなかったところだ。
才蔵との勝負も久しぶりだし…


ここはひとつ、腑抜けてないってところを見せてやろう。


「…目が変わった。嬉しいぞ、猿飛殿。この昇ぶりはお前でしか味わえない」


バンダナをきつく締め直していると、視界に才蔵も上着を脱ぎ捨てたのが見えた。
そこでつい、動きを止めてしまった。


「才蔵……随分筋肉ついたんじゃない?」

「ん、そうか…?」


才蔵を最後に見たのは今から二年も前のことだ。
あのときはまだ高校一年生…
こんなに胸筋や腹筋は隆起していなかったような気がする。

こちらの言を受けて才蔵は自身の身体を見下ろしている。
自覚がないということは、特に何をしたわけでもないということか。
だが水泳選手さながらの綺麗な肉の付き方だ。
ジムあたりにでも通っていたのかと一瞬疑ってしまった。


「そういえば……伊達の旦那としょっちゅう喧嘩してたんだっけ」


どちらがより耐えていられるかとかいって腹筋の殴り合いなんかもしたのかもしれない。
その光景がものすごく簡単に想像出来てしまい、なんだか笑えてくる。


「猿飛殿の代わりだ。あいつもなかなかいい拳だぞ」

「あっはは、じゃあ伊達の旦那も相当鍛えられてるだろうね。ちょっといい?」


切磋琢磨とはこういうときに使うのか。
笑いを堪えつつ鍛え込まれた才蔵の腹に手を添えてみる。

うん、固すぎないいい筋肉してる。
こりゃ今日の果たし合いは苦しくなりそうだな…


反対の手で二の腕も確認し、感心しながらそのまま胸に指先を移動させたとき。


「ッ…」


びくっ


急に才蔵が声を詰まらせて身体を引き、ぐいとこちらの肩に両手をついて身体を押し戻した。


「あ……ご、ごめん」

「いや、ちょっと……俺も…すまん」


肩を掴んでくる才蔵の力は思いの外強い。
その痛みに顔を歪めつつ、同時に相手の手の熱さに驚いていた。


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