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現世乱武小説
本当のところは(左三)


肩と耳で携帯を挟みながら手では繊細な作業を機械的に続ける。
前回の案のときは今まで仕事場にあった材料を使っていたということもあり、紙面のみでレプリカなど作らなかった。

あんなものわざわざ買うこともないだろうと踏んでいたが、もし買って作っていたら大層後悔しただろう。
それこそ没案のために気力と時間を割いていたことになるのだから。


『いいか、何もしなくていいからついてこい。もし俺に何か良からぬことをするようであれば無人島にお前一人置いて帰ってくれるわ』

「…そんなにご自分のガード固くすると溜まっちゃいますよ?適度な刺激は必要ですって」


なんといっても若い十代。発散したい欲は余るほどあるはずだ。

相手を気遣う中に少しばかりの冗談を込めてそう言うと、


『なっ……お、おおお大きなお世話だっ、こ、こ、この……変態のクズがぁッ!』


目の前にいたら確実にビンタをもらっていただろう。
鋭い一喝を飛ばした三成は別れの言葉も何もなくブツンと通話を切ってしまった。


持っていた接着剤を置いて携帯を掴み、待受画面に戻ってしまった液晶を見て困ったなと眉尻を下げる。

そろそろ帰れるという報告をするつもりだったのだが。
そろそろというか、この調子なら今日中に終わる。
会社から謙信が帰ってきたらレプリカを一応見てもらって、図案のほうも確認してもらったらそれらを預けてしまうつもりだった。

来週また住宅会社の依頼人には会えるということになっているものの、その日までこの山形で待つというのも謙信に悪い。
だったら、謙信には手間をかけさせてしまうが完成した図案を彼から依頼人に渡してもらったほうが効率がいい。
判らない点があれば連絡してくるだろう。

別に俺が直接立ち会う必要などないのだ。相手が求めているのはあくまでも俺が描いた家のイメージなのだから。


「…にしても……無人島ね…」


ぽつりと呟いてはみたが、雲の上の話というかなんというか…
テレビ番組でそういったところの探検などをやったりしているものもあるが、個人で行くとなるとそれなりに危険もついて回るはず。
出来れば三成さんは行かせたくないが(無論俺自身行かずに済むならそうしたい)せっかくの友人関係は大切にすべきだ。付き合いがよくて損はない。

そう頭では判っている。
…だがやはり一番大事な人は出来るだけ安全でいてほしい。


ま、目が届くならまだマシか…

これでもし留守番を言い渡されたらそれこそ気が気でない。
いくら子供ではないとはいえ、やっぱり年齢を重ねた側から見れば不安要素はたくさんある。


……そういえばあの二名の保護者たちはこのことを知っているのだろうか。
片方は旅館経営でどっちみち無理だとして、若い世話焼きのほうはもしかしたら猪を制御するため同行するかもしれない。
そうなればこちらの肩の荷も少しは軽くなるところだが…


「…っと、そんなことより続き続き」


止めていた手を動かし作業を再開する。


目標。すべてを10時までに終えて帰る。


おし、と気合いを入れ直し指先に神経を集中させ、レプリカ作りに没頭した。


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あきゅろす。
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