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現世乱武小説
それでもいいなら是非(左三)


学校が終わり、バイトまでの数時間のあいだに三成は電話をかけていた。


誰にか、だと?

そんなもの……今更訊く奴もいるまい。


『夏休みに…無人島?へぇ、そりゃまた…大それた計画ですねぇ』

「…お前、興味ないだろう」


抑揚のない相手の物言いに呆れてじっとりと切り返すと、控えめな笑い声が鼓膜を揺らした。


『そんなことないですよ。ただ……無人島ってやけますよね』

「やける…?」


神妙な声は決して冗談や揶揄いではないであろうことが判る。
いや、しかしまさか本気でそんなことを心配しているわけでもないだろう。だって行くのは元親とか幸村とか…いつもの連中だぞ?
今更左近が妬くことなどないはずだ。

だが嫌な気はしないな…

自然と口角が上がっていく。
普段余裕をかましている左近がヤキモチを妬くなんて珍しい。


「ならお前も来ればいいだろう。傍にいれば何に気を遣うこともない」

『俺が隣にいたって太陽は三成さんを狙ってますよ。…まぁ覆いかぶさってりゃ凌げるかもしれませんが』

「太陽って……視野広いな、左近。そんなこと言ったら相当守備を固めることになるぞ」


大袈裟な奴め…
太陽なんぞに嫉妬していたら無人島でなくてもきりがない。
苦笑するこちらに、左近はそれでも真面目に答えた。


『そりゃ紫外線は強敵ですから……行くなら黒の長袖長ズボンで頼みますよ』

「……?」


なんだか段々話が噛み合っていない気がしてきた。
太陽などより明らかに他意を持ち得る人間のことなどまるで気にしていないような口振りだ。

黙りこくってしまったこちらの反応をどう取ったのか、左近は噛んで含めるように補足してくる。


『黒が一番紫外線よけにはいいって、聞いたことありません?真偽は知りませんがね。とにかく出来る限り日焼け対策してくださいよ?
三成さんの白い肌が見られなくなると思うとどうも……無人島っつったらここよりオゾン層薄そうだしな…』

「……。…左近、」

『だからってずっと木陰にいるってのもつまらな……はい?』

「俺が無人島に行くにあたって、お前が一番心配で仕方ないと思っていることを言ってみろ」


既に予想は出来ている。

どうせ…

どうせ…!


『え?…いや、ですから三成さんが焼けてしまうことですって』

「……」


…ほらな。

そうなのだよ。
妬けるではなく焼ける…
知っていたわ。ふん。


『だって…下手したら東南アジアの青年ばりに黒くなってしまうかもしれませんし』


……。

日焼けサロンでもそこまで黒くならんわ。
黄色人種である限り大丈夫。…だと思うが、極限を知っているわけではないので明言は出来ない。


だが、肌などそのうちまたもとの色に戻るもの。
焼けて帰ってくるというのも思い出としてはありではなかろうか。


『そんな甘い考えでどうするんです』

「え、や……す、すまん」


…怒られた。


『ご自分じゃ気付いてないでしょうけど、三成さんの肌はそこらの女性なんかよりキメが細かくて綺麗なんですよ?』


それはどうだろう。
やはり女のそれとは根本的なところから作りが違うわけだし、さすがにそれは買い被り…


『だーかーら、ご自分で気付いてないだけなんですって。せっかく滑らかな肌なんですから大事にケアしてあげてください』


…な、なんかお前、化粧品会社の売り子みたいだぞ。

これは口には出さず胸の内にとどめる。
またどんな反論が返ってくるか判らない。


『紫外線の恐ろしさに無頓着なのは貴方が今まで極端にインドアだったからです。むやみに日差しに当たれば

「あー判った判った、つまり行くことに反対なのだな?」


熱弁を振るう左近についていけず、半ばあしらうように言ってやる。

が。


『反対なんてしませんよ。三成さんが行きたいなら行けばいい』


……ほぅ。
ここで行くなと言われれば元親の誘いを断らんでもなかったが、そうやって余裕こいて放任してると痛い目みるぞ…


「俺が行くということはお前ももちろん随行するのだからな。そこを踏まえて俺の好きにしていいと言ったのだろうから気にせず言うぞ。
俺は行きたい」


早口で付け入る隙を与えないよう言い放つと、さしもの左近も言葉を詰まらせていた。

ふん、どうだ参ったか。
更には俺が黒く焼けていく様を見せ付けてくれる。


『て、手を…』

「?」


ひどく慎重そうな低い声。
この男にしては珍しい。

行かないで済む口実でも考えているのだろうか。
…もしそうだとしたら、俺がやり込められないとも限らないな。

最悪の事態だけは免れなくてはと気を引き締めたとき。


『同級生方の前で……貴方に手を出さない自信はありませんが…それでも?』

「……え、」


まさかそんなことを訊かれるとは思っておらず、咄嗟に言葉が出てこない。

だってつまり…今のはあいつらの目の前で……な、何かするという宣戦布告だろう?


そ、そんなの許すわけがない。
事と次第によっては軽く死ねる。


「…俺がそれを許可すると思うか?」

『んー…ああ、じゃあ皆さんが寝静まった頃にこっそりヤっちゃいますか』

「ぜっっっっったいしないからなッ!!」


左近は電話越しにえーなどと不満たらたらな声を上げた。

…一人でしてろっ


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あきゅろす。
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