現世乱武小説
予定は未定(左三)
得意げに言った元親は、俺がいないとホント駄目だなお前らなどと胸を反らし、見るからに威張っていた。
というか夏休みってイベントといっていいのか?
なんだか期間がありすぎてしっくりこないが、そこを突いたら元親の猛烈な反論が返ってくる気がしたので黙っておくことにしよう。
「なぁ、どこにも行かねぇの?」
こちらの沈黙をどう取ったのか、元親は机に両手を突いて言葉を繋いでくる。
皆で視線を交わしあうと、まず政宗が答えた。
「んな先のこともう考えてんの、たぶんあんたくらいじゃねぇの?つーか俺ずっと旅館だし」
「あー、お前オーナーだもんな。…幸村は?」
佐助のお手製と思しき弁当を平らげ、満足そうに片付けていた幸村は話を振られて数度瞬きする。
「予定はまだ入れてはおらぬが……何日か仕事の手伝いをするようお館様に仰せつかっておりまする」
「お、じゃあ暇もあるんだな?」
嬉しそうに詰め寄る元親によく判っていない顔で頷く幸村。
次いで元親は隻眼を兼続に向けた。
「あんたは?なんか先約あるか?」
「そうだな……日にちは決めていないが、謙信公にお会いするため帰省するつもりだ」
「よーしよし、三成はどうだ?」
「…なんの調査か知らんが、とりあえず予定はない。大体いつからなのだ、夏休みは」
「考査が終わったらだ。来週の金曜が今学期最後だった気がするな。
…っと、そんなことよりよく聞けオメー等!!」
いきなり元親の威張り度がぐんと上がった。
幸村と兼続が好奇の眼差しを注ぐのに対し、俺と政宗は胡散臭いものを見るような目で相手を見遣る。
元親の鼻がふふんという鼻息と共に高くなった。
「お前ら……無人島とか興味ねぇ?てかあるだろ。冒険心溢れる未成年だもんな?なきゃダメだよな?」
「…無人島?」
誰ともなく訊き返すと、元親は大きく頷いた。
「何日間かサバイバル、なんてどうよ?」
突拍子もない提案に言葉を出せずにいると、幸村ががたんと勢いよく椅子を蹴って立ち上がった。
「も、元親殿…」
「ん?……って、だいじょぶか幸村、なんかお前震えて…」
下を向いて固く握りこぶしを作る幸村に、元親が心配して顔を覗き込もうとしたとき。
ばっと上げられた幸村の顔が、とても輝いていた。
…否、輝いていたのはもちろん目なのだが、その輝きが強すぎて顔から光を放出しているように見える勢いなのだ。
「是非っ!行きとうござるっ!!」
「お、おう……行こうな、うん」
至近距離で輝く幸村に、逆に元親が尻込みしているくらいだ。
野性の血でも滾ってきたのだろうか。
「まぁお前らも予定空くようなら言ってくれよ。船ならいつでも出せっから」
「ああ、判っ……………え、な…船!?」
軽く頷きそうになってしまったが……最後さらりと何を言った?
幸村は聞いていたのかいなかったのか遠くを眺めて高揚感に燃えていたが、政宗と兼続はやはり驚いているようで口をぽかんと開けて元親を見つめている。
しかし当の元親はさして意に介していないらしく、驚いたこちらの反応に目を丸くしている。
「な、なんだよ……急にでかい声出しやがって…」
「……なぁ元親、お前んちって何してんだ?」
恐る恐るといった風に政宗が訊ねると、元親は言ってなかったっけなどと嘯いてなんでもないことのようにさらりと言ってのけた。
「うち資本家なんだよ。つっても主に四国の企業の株主だけどよ」
し、資本家…
ってことは要するに超大金持ち。
「…ボンボンか」
ぼそりと言うと、元親は口を尖らせた。
「ボンボンっつーと元から金持ちだった家に生まれたみてーじゃん」
「違うのか?…そうではないとなるとかなり大変な結論になるぞ」
そう。だって、親のおかげで大富豪というわけじゃないということは単純に考えて"元親がなんらかの形で金を稼いだ"ということになってしまう。
そんな馬鹿げた話今まで一度も…
ぐるぐると考えているこちらを尻目に、元親の口元は不敵な笑みを刻む。
「株と競馬だよ。中坊ん頃に遊びでやったら大当りだ。おかげで家も新築!船やヘリも俺様の帰りを待ってるぜ〜」
「……ヘリ…」
「あー、俺頭いて」
「家族に家を買ってやるとは…義だな!大義だ!」
なんだか別次元の話を聞いている気分だ。
「Ah?でもお前バイトしてるだろ。万年金欠だし」
訝しげに言う政宗に元親は何か思い出したように「あ!」と声を上げた。
「そうだ政宗!あの旅館で俺使ってくんねぇ?賄い以外ならなんでもやるからよっ」
「はぁ?…急だな。仕送りとかないのか?」
「…あー、いや、バイト先に就職しようと思ってんだけど、それ言ったら親が仕送り止めるっつって…」
「……うわ、馬鹿だなぁ」
「あー!おっまえ片倉さんと同じこと言うんじゃねえッ」
がーがー喚く元親をいなし、政宗は軽く了承した。
常に人手不足というのは見ていれば判る。
客がいるときは全員がフル回転なのだから。
「礼儀作法は小十郎にみっちり教えさせるからな」
「げっ……き、きつそ…」
苦々しく呟く元親に三成は少なからず同情した。
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