現世乱武小説
一大イベント?(左三)
朝食を政宗と胃に流し込み、競うようにして顔を洗って着替えた頃、羨ましい限りの元気な声が轟いた。
「おはよーございます!!」
その人物の登場により、途端に騒がしくなる館内。
あちらこちらから政宗を呼ぶ声が飛んでくる。
「オーナー!真田さん来ちまいましたぜっ」
「用意出来てますか、オーナー!」
「真田さんっすよー!オーナー!!」
…怒号のようだ。
朝から絶好調な従業員たちである。
政宗は周囲に応えながらカバンを肩に引っ掛けて廊下を走っていってしまう。
なんとなく取り残される形になった三成の肩を後ろから誰かが軽く叩いた。
振り返ってみれば、先程不毛な口論を繰り広げた相手、小十郎だった。
「…誰しも、順調ってわけじゃねぇ」
「え…」
そう小さく零す小十郎の目元はどことなく沈んでいたが、ほんの少しだけ笑っているようにも見えて三成は首を傾げる。
その意味を問おうとして口を開きかけたが、幸村の己を呼ぶ大音声が被さって叶わなかった。
その幸村の威勢のよさに、丈夫な喉だと小十郎が可笑しそうに笑ったときにはもう影は消えていた。
…なんだったのだろう。
「早く行ってやれ。走って登校することになるぞ」
「あ、ああ…」
背を押されて、仕方なしに足を動かし小走りでフロントに向かう。
ちらりと背後を振り返ってみたが、仕事に戻ってしまった小十郎はこちらに背中を向けて何事もなかったように歩いているだけ。
中身を質すことも出来ず、難しい顔のまま三成は足を早めた。
「幸村、佐助は仕事が終わったらそのまま旅館に来るのか?」
昼休み。
なんとしても政宗並のリアクションを自分の言葉で佐助にさせたくて、先手を打ってやろうと考え切り出した。
小十郎が傍にいるとまた横槍を入れられかねないので、旅館に来るならそれまで入口で張っていようという計画だ。
幸村はリスかハムスターのように両の頬を膨らませて弁当を頬張りながら(誰も取ったりしないのだからそんなに一生懸命食べなくてもいいだろうに)、考えるように視線を虚空に向ける。
「ひふほはほうへほはふは、ひょーははひは
「……食うか喋るかどっちかにしろ」
何を言っているのかまったく判らん。
ペットボトルの茶を渡すと、幸村は三分のニほど残っていたそれを一気に飲み干して苦しげに目を見開いて胸を叩く。
それを兼続が脇で応援していた。
とりあえず口内が片付いたらしく、顔の形が通常に戻った幸村が改めてこちらに向き直る。
「いつもはそうでござるが、今日は確か才蔵と果たし合いをするとか…」
それを隣で聞いていた政宗が呆れた顔になる。
「霧隠のやつ……まだそんなことやってんのか?」
「うーむ…佐助が申すには最近はなかったようで……久しぶりの決闘だとげんなりしておった」
…となると早くて今日の夜あたりか。
政宗と同時に違う種類の溜息をついた。
左近が帰ってくるまでに話したかったのだが、段々怪しくなってきた。
いつも小十郎に会いに通っているわけではないのか…
まあそれも仕方ないかとコンビニのおにぎりをかじっていると、屋上で元就と昼飯を食べていたはずの元親が教室に顔を出した。
「お、みんないるな」
「なんだ、また喧嘩したのか」
「Ah-...追い出されたんだな。めげるな元親」
「そ、某の弁当を狙いに来たでござるかっ?」
「なに、義の下に集った我々に諍いなど起こり得るはずがない!」
「そーじゃねえッ、聞け!!」
口々に適当なことを言うこちらをびしっと制し、元親はやれやれと言わんばかりの顔で腰に手を当てた。
「ったくおめーらって奴は…。一大イベントが迫ってるっつーのに揃いも揃って間抜けなツラしやがって」
「一大イベント?考査のことか?」
「そういや来週からだな」
「某には日々の食事が一大イベントでござる」
「ふっ、義祭のことだろう。私はいつでも準備万端だが?」
「だぁー!うるせーっ!考査食事なんざイベントじゃねえだろ!つーか義祭ってなんだっ」
そしてひとつ咳払いをすると、改めて元親はこちらを見回して疲れたように口を開いた。
「夏休みだよ、夏休み」
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