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現世乱武小説
伏兵の猛攻(左三)


あー…やばいな。喉が痛い。

三成は布団を部屋の隅に押し退けると、そこに突っ伏した。


結局ほとんど眠ることなど出来なかったが、二、三時間くらいは寝られただろうか。
一応あのあと入れ替え直前のぬるい温泉に入り、さっぱりしてから布団に入った。

が、とにかく喉が渇いて痛い。
夕べは……というか今朝か。髪もちゃんと拭いたつもりなのだが…
予防したところで既に手遅れだったらしい。


ぼーっとして二度寝しかけたとき、トタトタと廊下を軽快に走る足音が聞こえた。


「よぉ三成!夜中に来たんだってな。島さんとのことはケリついたのか?」


すぱんっと勢いよく襖を開けて現れたのは、夕べ会えなかった政宗。
隻眼は期待の色にきらきらと輝いていて、ああこいつよく寝たんだなぁとすぐに判るほど健康的だ。

未だ睡魔に誘惑され続ける重い頭を起こし、目を擦りながら欠伸を噛み殺す。


「ああ……いい具合に収まった」

「みたいだな。顔が全然違うぜ、あんた。電話でもしたのか?島さんまだ帰ってねぇんだろ?」

「ふっ、聞いたら羨ましがる――…」


いや待て。
こいつを育てた奴らは鼻で笑う勢いだったのだ、そんな中で成長してきた政宗は同じ考えに至るのではないか…?
そ、そんなことになったらダメだ!
また馬鹿にされるのがオチではないかっ


「どうした、三成?」

「……い、いや」


…どうしよう。
すごく…


は、は、話したい…!


そうだ…10も歳のいった連中はきっと渇いてしまっているのだよ。
だから何を聞いても感動もしなければ共感もしない!

だが見ろ。
政宗はまだ張りのある瑞々しい十代だ。
激情に駆られる年頃……いける!


「電話は…お、俺からしたのだ」

「あんたがっ?へー…そりゃ意外だぜ。奥手だとばかり思ってた」


ふむ。手応えあり、だな。
やはり枯れた奴らとは切り返しが違う。

どことなく勝ち誇った笑みを口元に浮かべて三成は続けた。


「謝るつもりだった。もとはといえば俺が逃げ出したのが始まりだったからな。そしたら左近のやつ……」


う…
やっぱりここはどうしても恥ずかしい。

口篭るこちらの様子を焦らしていると思ったらしい政宗が歯痒そうに先を促す。


「勿体つけてないでとっとと教えろよ!でないと――

「政宗様、そろそろ朝食を摂りませぬとお時間が」

「……Okay.小十郎。でも今いいとこなんだよ」


畏まった風に深く腰を折って、いつからいたのか小十郎が口を挟んだ。
ほらなと言わんばかりの表情でこちらを見つつ、小十郎に片手を挙げて応える政宗。

頭を上げた小十郎とばっちり目が合う。
数回の瞬きの後、何か納得したような顔をすると小十郎は政宗に向き直った。


「改めて告白されたようですよ」

「そ、そうなのか三成っ!」

「え……………まぁ、…うん」

「すげぇなそれ!やってくれるねぇー島さんっ。なんかこう…romanticを判ってるっていうか……驚異のtimingだよな!なぁ三成っ」

「……そ、そうだな」


俺が…言いたかったのに…

政宗のこのリアクション……これこそ俺が求めていたものなのに、なんだかもうひどく複雑な気分だ。
確かになかなか言い出せずにいたが、溜めもしないであんなにあっさり明かしたら…その、重みというか事の大きさというか、どれだけ俺が嬉しかったかが伝わらないではないか。

責める視線をじっとりと小十郎に注ぐが、当事者は素知らぬ顔でそれを見事にやり過ごしてくれた。


「さ、急ぎましょう政宗様。真田も来てしまいますぞ」

「おっと、そうだな。Honeyを待たせるわけにはいかねぇ。あんたも一緒に食っちまおうぜ。小十郎、布団片付けてやれ」

「御意」


政宗に手招きされ、のろのろと立ち上がり部屋を出ると入れ違いに小十郎と擦れ違った。


「…KYめ」


相手に聞こえるように呪詛の如く囁いてやると、小十郎は足を止めた。


「政宗様に遅刻されずに済むならそれも悪くねぇな」


低くどすの効いた声に、こちらも足を止める。


「よくもそう都合よく言えるものだな。単に送ってけとごねられるのが面倒なだけだろう」

「はっ、俺が政宗様からの頼みを面倒などと思うわけがあるか。甘くしたら時間で動かなくてもなんとかなると思い込ませちまうだろ」

「どうだかな。一度や二度時間にルーズになったところで癖になどならんと思うが?」

「判ってねぇな…。学び取る今の時期にこそ厳しくしないでいつする?」


一歩行き過ぎた形で背中合わせにぼそぼそと火花を散らしていると、ぐいと政宗に腕を引かれた。


「布団は小十郎に任せとけって。メシ掻き込むぞっ」

「ま、待てっまだ終わって…!」


ずりずりと半ば引きずられるようにして、三成は連行された。


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あきゅろす。
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