現世乱武小説
とっておきなんだけど…(左三)
通された部屋で、三成は小十郎と綱元を前にココアを啜っていた。
こんなムシムシした夜にホットココアってどうなんだ、と言ってやりたかったが、左近にも劣らない強面二人にガン飛ばされたら何も言えなくなる。
「…じゃあ会ってねぇんだな?」
確認するように小十郎に訊ねられ、ココアを両手で包みながらこくりと頷く。
困ったもんだと溜息をつく相手に、三成は弁解するようにしかし、と言った。
「で、電話ならした。…ここに来る少し前に」
慌てて付け足すと、小十郎がばっと顔を上げる。
綱元は事態を理解しようとしているのか腕を組んで聞いているだけだった。
政宗は既に寝てしまっているらしい。
それもそうだ。時間はとうに次の日になって、幽霊が出現する定番の時刻をまわっているのだから。
「電話……したのか?話したのかっ?」
「あ、ああ」
食ってかかる勢いでテーブルに手を突いて身を乗り出す小十郎に若干尻込みしつつ慎重に首を縦に下ろす。
そのあとも数秒固まっていたが、脱力したように小十郎の頭は沈んでいった。
「……そういうのァ…もっと早く言わねぇか…」
「…だっ、訊かなかったではないか!会ってはいないのだ、嘘はついておらん」
「はあぁぁ…」
「そ、そこまで疲れずともよかろう!」
「…で、どうだった」
もはや心配はしていないといった感じで訊く小十郎。
やや投げやりな感が否めないが、とうとう電話の内容を説明するときがきた、ということで三成の口元がひくりとにやけを抑える。
しかし顔が赤くなることまでは自分では制御出来ず、それをずっと黙っていた綱元は見逃さなかった。
「ははぁ…。おい片倉、訊くまでもねぇぞ」
「? どういうことだ」
きょとんとする小十郎に、察しがついたらしい綱元は苦笑しながらぼそりと告げる。
「惚気だ惚気。会話でいちゃついてたんだろうよ」
「はあぁぁ…」
「う……い、いちゃついていたわけではないっ!ただ…改めて、その…」
――三成さんが…大好きです
脳裏に左近の声が響くと、同時に頭の芯がかぁっと熱くなるのが判る。
あんなに人に言いたかったことなのに、いざ言おうとすると憤死できそうなほど恥ずかしい。
もごもごと言い澱む三成を見兼ねて、綱元が怠そうに口を開いた。
「改めて告白されたんだとよー」
「はああぁぁぁ…」
「さっ 先に言うな貴様ァ!!」
ココアが入ったマグカップをがんっとテーブルに置いて怒鳴る。
小十郎の顔には疲労が濃く、溜息はどんどん長く低いものになっていった。
せっかくとっておきの話としてわざわざ持ってきてやったのに…!
こんなに蔑ろに扱われるとは思っておらず、なんだか無性に悔しい。
「それで、いつ頃帰ってくるんだ、あの馬鹿は?」
しかももう話の論点がずれている…
わざとやっているのではという猜疑の眼差しで見返すが、思いは通じなかったらしい。
どうしたとでも言いたげな瞬きをされるだけで、虚しさが一層増した。
「……。知らん。具体的な日取りは言えぬと言っていた。それより訊いておいてなんだその態度は…。心配するか呆れるか、せめてどちらかにしろ」
「くっははははは!」
なんの前触れもなく綱元が笑い出し、思わずびくりと身をのけ反らせた。
急になんなのだ…
可笑しそうにばしばしと小十郎の肩を叩いて笑う綱元に、若干引くような視線を向ける。
「ど…どうかしたのか?」
内心びくびくしつつも強気に振る舞う。
まだ正常そうな小十郎に訊ねるが、よくよく見てみれば小十郎も「うわぁ…」とでも言わんばかりの目で隣の銀髪を見ていた。
ひとしきり笑って満足したのか、息を整えながら綱元がようやく言語を発する。
「いやーわりぃ。こんな真夜中にいきなり来た理由がその話をするためだったのかって思ったら…ぶふっ…つ、ついな」
「きっ…さまァ!!それが理由で何が悪いッ!!」
キィーッとテーブルを乗り越えて綱元に掴みかかろうとしたところを小十郎に取り押さえられた。
「座らねぇか。…確かに言われてみればそうだが」
「んなっ」
「とにかく、だ。明日お前も学校なんだろ?そろそろ寝とけ」
「う………明日は……や、休む…」
視線を外してぼそりと呟く。
制服は着てきたし、カバンもある。学校に行く気はもちろんあったが、左近はいつ帰ってくるのか判らないのだ。
ちゃんと謝らなくてはいけないから、などと嘯いてみるが、綱元にあっさり却下された。
「学生がそんな簡単に休むなんて言うもんじゃねえぞ?政宗様と行きゃいいじゃねーか」
「くっ……そ、そうだ!佐助はいつも何時に来るのだっ?」
「あいつは…夕方か?なんだ、佐助に用があって来たのか」
「そ………い、いや…」
珍しいなと言う小十郎に、佐助に左近との話をして共感してもらおうと思っているなど言えようはずもなかった。
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