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現世乱武小説
外泊主義(左三)


ベッドの上に猫のように丸くなり、三成は窓から射し込む月明かりを背に転がっていた。
ぎゅっと右手で携帯を握りしめ、左手で髪をくしゃくしゃと掻き混ぜてやり場のない昂揚感を抑え込む。


左近が…電話に出てくれた。
優しくいつもどおり話してくれた。
怒っていなかった。

大好きだと……言ってくれた。


ほっとしすぎて涙が出てくる。
……よかった。本当に。

半ば自棄になって通話ボタンを押してしまったことを、コールが聞こえてからひどく後悔した。

出てくれなかったら傷つくのは自分だ。
傷口に塩を塗るようなことをして、俺は尚も平静でいられるのだろうか。
そう考えるとすごく怖くなって、電話が繋がっても声が出なかった。


……でも、左近はちゃんと出てくれた。
呼びかけてくれた。
捨てられて当然だと思っていたのに、優しく穏やかな声で。

それを耳にした瞬間、月並みな表現ではあるが胸がいっぱいになったのだ。
心底安堵して、嬉しくて。


体の内側から爆発するんじゃないかと思うほどの興奮。
がばりと上体を起こし、はぁ、とひとつ息を吐く。
自然と頬が緩んでしまう。

胡座をかいてぎゅうと己の両腕を抱き込み、固く目を閉じる。
こうでもしないと幸せが溢れ出しそうだ。

またすぐにでも声が聞きたい。
耳に心地よく響く、少し掠れた低い声。落ち着いたそれはしっとりと色を含んでいて、容易に俺から余裕を奪っていく。


…無理にでも連れてくればよかった、か。


「………」


か、顔がたるむっ
にやけが止まらない…!

いや、だってあれは反則だろう!
滅多に聞けない悔しそうな声音…あれは耳に毒だ。心臓を鷲掴みというのはまさにあれのことだろう。
そんな声で言っていい台詞ではない。命が足りん。


「……」


誰かに…い、言いたい。
この喜びと惚気具合を…

うずうずと腹の底から沸き上がる歓喜を誰でもいいからぶつけたかった。


だが誰がいい?

兼続は事情を何も知らないし、他の連中もそうだ。政宗には十分迷惑をかけたし…


この激しい幸せを分かち合ってくれるのは、と考えたとき、一人ぽんと浮かんだ。

…猿飛佐助。


何故左近とぎすぎすしてしまったかなどの経緯こそ知らないだろうが、そこを除けばあの男が一番俺と近いところにいる気がする。


「……よし」


奴にしよう。あまり他所様に吹聴しなそうだしな。

一人頷くが、今すぐに電話をかけるということは出来ない。
なんといっても時間が時間だ。
さすがにこんな真夜中では寝ていなくともいい気はしない。


……ん?
というか、佐助の電話番号もアドレスも俺はまだ知らないではないか。

あーくそ、まさかここまで冷めない興奮を持て余すことになろうとは。
おちおち眠れもしない。


これは困ったと真剣に考えると、案外早く糸口は見えた。

左近は…まだ帰ってこれないと言っていたな。


「……ふ、そうだ。その手があったではないか!」


高らかにそう言ってベッドから跳ね起き、寝室を飛び出すとシフトを見て明日もバイトが入っていることを確認する。
カバンを引っ掴んでろくに付けもしなかった電気を消してまわり、自分が制服であることを確かめると足早に部屋を出た。

鍵をかけて通路を歩きつつ、自らの案を称賛してやる。

かんかんと軽快な足音を響かせて階段を降りた足は、そのまま旅館のほうへと向けられた。


そう、あの旅館に行けば、政宗だっているし佐助もよく来る。
こういった話をするのにはうってつけではないか!


三成は緩む頬を軽く摘んでにやにや笑いを隠し、足を早めた。

最近、アパートで寝てないななどと心の片隅で思いながら。


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あきゅろす。
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