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現世乱武小説
保護観念(左三)


三成の震える声が電話越しに伝わってくる。
その苦しげな声を聞けば聞くほど自身の中に後悔が押し寄せてくる。


三成さんが悪い…?
違う。
年上である俺がもっと理解してやれていればこんなことにはならなかった。


「…辛い思いをさせてしまいましたね。すみません」

『…っ、……呆れては…いないのか…?』

「…何故です」


思いも寄らない質問に僅かに眉を潜めつつ訊き返す。
答える声は、こちらの様子を窺っているような色を含んでいた。


『お、俺が……素直になれないから呆れたのではないのか…?』

「……はい?」

『それで……き、嫌われたのかと…』

「………」


一瞬わけが判らなかった。

なんだって?
三成さんが素直じゃないから俺が呆れて嫌いになった?
そんな馬鹿な…

有り得なさすぎて言葉がでない。
そんなこと考えたこともなかった。


『…だから……今日色々考えたのだ。』

こちらの沈黙に不安を感じたのか、三成は何か言わなくてはと焦るように言葉を重ねてくる。

『兼続や…幸村…政宗やみんなは普段どうやって素直に接しているのか。だが…』


よく判らなかった。

呟いて、俯いている姿が目に浮かぶ。


苦しかったに違いない。
どうすれば素直になれるのか、試行錯誤してみてもやっぱりダメで。


「……三成さん。」


そんなに簡単に己の性質を変えることなど出来るわけがない。
生まれてからずっと今日この日まで続けていたスタンスなのだから、あっさり覆るようならそんな自己は薄っぺらすぎる。


「他の人の真似なんてね、出来なくて当然なんですよ」

『しかしっ……今のままでは…』


懸命な物言いに、胸が痛むと同時に目元が和らぐ。
そこまで好いてくれているとは思っていなかった。目の前にいたらめちゃくちゃに抱きしめてやりたいくらいだ。


「左近の気持ちは、三成さんが変わっても変わらなくてもずっと一緒です。

…三成さんが大好きです」

『さ、こ……』

「夕べはばたばたしてて探しに行く時間がありませんでしたが…出来れば離れたくはなかった。
俺自身、あのとき貴方を置いて行ったことを悔いてます。いっそのこと無理にでもこっちに連れてきちまえばよかったんだ」


声しか聞こえないということをここまで煩わしく思ったことはない。
涙に濡れているであろうその目尻を優しく撫でて、この腕に貴方のすべてを収めてしまいたい。


「…本当に、すみませんでした」

『……俺も、悪かった』


今、三成さんは嫌というほど顔を赤くしていることだろう。
話し方からですら伝わるのだから可愛い人だ。


「しかし三成さん…なんというか、大人になりましたね」

『な、なんだいきなり』

「いえ、なんとなく話しててそう思っただけです」


周りに目を向けるようになった。

これは立派な成長と言えるだろう。
なりふり構わず壁を作って拒否していた以前とは違い、自ら殻を破ったのだ。


俺がいなくなって、初めて踏み出せた一歩。

大切に思うあまり三成の人としての成長を妨げていたのだと痛感し、目を閉じた。


今までなら相手のことなどいざしらず、やりたいようにしてきたところだが……仕方ない。これが愛の有無の違いだ。


「あ、そうだ。上杉さんの頭なんですがね、未だ確認出来ていないんですよ」

『……は?』

「三成さんに言いませんでしたっけ。上杉さんの頭が気になるって」

『いや…初耳だ。』

困惑気味な声で三成は応じたが、だが、と少し考えて続けた。

『……気になるな』

「でしょ?」

『…うむ、一度しか会ったことはないが、確か真っ白だったな。……考えれば考えるほど気になる』

「では、今夜にでも見ておきます。成功次第連絡しますね」


よし、これで三成さんも共犯だ。
この話題を出して食いつかない者などいないだろう。

にんまりと笑い頭の中で作戦を立てていると、携帯から短く己を呼ぶ声がした。


『…左近』

「はい?」

『一緒に住んでいるのか』

「は………い、いや、あの、」

『本当のことを言っていいぞ、俺は怒らん。ははは』


まずいまずいまずいっ!
声が全然笑ってない!


「す、住んでいるというより部屋をひとつ貸してもらってるだけでして…」

『ほー…部屋をひとつ?』

「…え、ええ」


慎重に和やかに聞こえるよう返すが…


『…俺はそれだけあれば十分だと思うがなっ!』

「えぇぇぇ!!?
ちがっ、ただの親切心で…何もしてませんっ」

『そうかそうか、よーく判った。もう隠す必要などないぞ、俺は微塵も怒っていない』


そう言いながらも、三成が冗談で怒っているということは明言せずとも左近に伝わっていて。

鼻はすすっていたが、三成の口調は明るいものだった。


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