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現世乱武小説
頼る勇気(小十佐)


一旦口火を切ると、止まることを知らずに政宗は小十郎にしか話せなかった内容を打ち明けた。

綱元は、同性を好いていると言ったときこそ驚いていたが、そのあとの今も尚引きずる政宗の悩みにはより真剣に耳を傾けていた。
女性問題に常に取り巻かれているというのも手伝ってか、男どうしの難しさと複雑さにも敏感らしい。


拒否されたことと今日の変貌ぶりが主な内容で、大体のところは小十郎も把握しているものだ。
しかし話し終えた政宗を前に、綱元は眉間のしわもそのままに微動だにせず考え込んでいた。


「……面倒な話で悪いな。俺の問題なのに」


苦々しく笑う政宗の隻眼は暗い。
小十郎が何も口を出さずにいると、黙っていた綱元がデスク越しに手を伸ばして政宗の髪をさらりと撫でた。


「面倒だからこそ…私たちは貴方に溜め込んでほしくないんですよ」

「…え」


政宗が顔を上げれば綱元が苦笑を称えていて。
しばらくその目を見つめていた政宗が何故かこちらを振り向く。
察してやることが出来ず小十郎が反応を返せずにいると、不意に政宗が小さく笑った。


「くくっ…」

「政宗様…?」

「わ、わり……ぶ、くくくっ」


顔に何かついているだろうかと綱元に確認してもらうが、「いつもの本職顔だが…」と呟かれるだけ。
不思議そうに顔を見合わせていると、ひとしきり笑い終えた政宗が涙を指の背で拭いながらこちらに向き直った。


「だってよ、自覚ねぇだろうけどお前らって……まあシゲもだけど、お前ら三人ってほんっと似てんだぜ?」

「に、似て……るかぁ?」

「…鬼庭、なんだその嫌そうな顔は」

「……別に。え、あの、政宗様、まさか顔がってわけじゃありませんよね?」

「何が言いてえっ!」


あろうことか人の顔を指差して政宗に訊ねる綱元に食ってかかるが、またもや政宗に笑われてしまい気勢が削がれる。


「外見じゃねえよ。……ああ、でもこうやって見ると顔も似てなくもないか…?」

「うおっ、勘弁してくれよっ!俺向こう傷なんてねぇぞッ」

「んなっ!?俺だって髪なんざ染めちゃいねえ!」

「片倉は黒だから"っぽい"んだろ」

「む……ってこれ地じゃねえか!!どうしろっていうんだよ!」

「改善の余地なしだ、諦めな」


くそっ
鬼庭といい島といい、どうしてこう俺が心を許せる相手は口がまわるんだ。

不毛な戦いを繰り広げつつ火花を散らしていると、政宗が呆れたような溜息を軽くついた。


「そういうところも含めて似てるっつってんだ。You see?」

「う…」「ぐ…」


10も離れた保護対象に溜息をつかれるとは…

お互い「こいつが悪い」と結論付けて顔を逸らす。
まあ、確かに建前や礼儀を取っ払って接することが出来る相手ということもあって気が緩んでしまうことも間々ある。


「…でもやっぱり、お前らは俺を第一に考えてくれるだろ?」

「……政宗様…」


ほんの少しだけ微笑を浮かべて、政宗は吶々と続ける。


「この旅館がちゃんと根を張るまで俺を支えてくれたのはお前らだ。…今だって、面倒事持ってくるたんびに投げずに聞いてくれる」

「……」

「それに、」

ここが一番肝心なとこなんだけど、と前置きして、政宗は嬉しそうに左目を細めた。

「お前らは誰ひとり、それが勤めだからって言わねぇんだよ。
……それが、すごく嬉しい」


立場上は俺をサポートする立場でも、まるで自主的に心配してくれているようで。
雇い主でなくても、こうして傍にいてくれる気がして。

そう言って俯いてしまうが、消え入りそうな声でありがとうと繰り返している。


いつにない姿に脈が乱れるのが判る。

そんなことを考えていたとは…
普段から政宗を見てきたということで奢っていたらしい。
自分が思っているほど理解できていなかったということか。


「…お顔を上げてください、政宗様」


穏やかに声をかけるが頑として政宗は表情を見せようとはしない。
目尻を下げて微かに笑い、綱元と視線を交わしてそっと政宗の頭を抱きしめた。


「我々は政宗様のお力になれることならなんでも致します。
ですから…存分に頼ってくださって結構。我々もそれを望んでおります」

「小十郎…」


変なプライドは、身内の中では自分の首を絞めるだけにすぎない。

格好つけたりしなくていい。
不安や悩みを打ち明けることは弱さなどではない。
それもまた勇気だ。


…これほど政宗を大切に思えるようになったのも、あいつに会ってからだったと思う。
誰かを慈しむあまり己がぼろぼろになっていた、あいつに。


影響を受けるなど自分らしくない。
島あたりには何か言われそうだが…

守りたいものが増えるのは悪いことではないだろう?


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