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現世乱武小説
三傑の愛(小十佐)


「…政宗様遅くねぇか、片倉」

「政宗遅いよ、かたくー」

「……私に言われましても」


裏口には左から順に鬼庭綱元、伊達成実、片倉小十郎と、かつて伊達の三傑と称された面々が雁首揃えて待機していた。


現在、午後6時。
政宗の常の帰宅時間はとうに過ぎており、本調子でない政宗を励ますため俺らで迎えに上がろう、という成実の提案でここにいるのだが…


「政宗…今流行りの拉致とかされたかな…」

「…縁起でもねぇこと言わんでくださいよ、成実さん」

「でもほら、政宗って女顔っていうか…美人じゃん?俺に似て」

「……おい片倉、今空耳が聞こえたんだが…俺も歳か?」

「知るか。俺はもう政宗様からの着信音しか耳に入らねぇ」

「おーそりゃ重症だ……いや、末期か」

「無視?あ、なに無視?シゲちゃん寂しいなー」

「…えーと、すんません。イラッときます、成実さん」


ぼそぼそと話しながらも視線は揃って一枚の扉に向けられている。
傍から見たら異様な光景だろう。

と、そのとき。
ガチャリとノブがまわった。


「政宗おーかえりぃ!!」

「うわっぷ!?」


一歩踏み込んできた人物に成実は捨て身タックルよろしく抱き着いた。

…が、トレードマークの眼帯もしていなければ黒髪でもない。
金髪のリーゼントヘアだ。


「…た、ただ今戻りました…」

「っかー!紛らわしいなテメェこの野郎っ」

「あれ…政宗じゃない」

「ふー…買い出しか?」


頭を抱える綱元とつまらなそうに身体を離す成実、疲れたように訊ねてくる小十郎をそれぞれ見回しながら従業員はビニール袋を遠慮がちに掲げて頷いた。


「ただいま、っと……何突っ立ってんだ、お前ら」

「あ、オーナー!おかえりなさい!」


ちょうど全員の気が抜けたのを見計らったように、待ち侘びたはずの政宗が半端に開いたドアからひょっこり顔を出した。

がばりと腰を直角に折って頭を下げる従業員とは裏腹に、なんだかグダグダになった感に苛まれながら低い声で三傑はおかえりなさいと呟いた。













「綱元、お前今夜はいいのか?」

「何がです?」

「女」


事務所でコーヒーを啜りながら政宗は相向かいに座る綱元を見遣る。
綱元は目を丸くして、小さく吹き出した。


「そんなに毎晩ってわけじゃありませんよ」

「いや毎晩だろ。なあ小十郎?」

「ええ。それも取っ替え引っ替え…」

「ひっ、人聞きわりぃなっ!」

「いや事実だろ。なあ小十郎?」

「ええ。それも手加減なく…」

「んなっ……片倉、おっまえ…!」


政宗と小十郎に静かに否定され、綱元は憮然とした顔で口を噤んだ。


憮然とした、と一口に言っても綱元のそれは常人のそれより険しい。
もとの顔の作りが厳つく、基本愛嬌が売りであるこの仕事においてあまり表に出てくることはない。
それを俺が言うのか、と思う者もいるだろうが、生憎俺は支配人である。客の前に出るのは必定ということだ。
…仕方ないのだ。外ならぬ俺自身が客に申し訳なく思っている。


しかも綱元の場合髪を銀に染めているため、柄の悪さというかそういうオーラが際立っているように感じるというのも難点だ。
タッパもあるしガタイもいい。
女に困らないというのも頷ける。


今成実は席を外している。
結局ひとりも来客がなかった本日、従業員に夕食を振る舞おうと厨房に声掛けがてら手伝いに下りている。


「…まあなんでもいいですけどね。今夜は政宗様のために空けてあるんですよ」

「…俺のため?」


回りくどいことが嫌いな綱元とはいえ、政宗を傷つけまいとしているはず…
そう思っていても小十郎にとっては心配だった。

政宗はよく判っていないように首を傾げるばかり。


「はい、今朝の政宗様は明らかに危うかったんで…
片倉にはすべて打ち明けておいでのようですが、私も役不足ながら何かご助力出来ればと思いまして」


キャスターを転がして立ち上がり政宗に頭を垂れる姿からは誠実なものを感じる。

政宗は若干困惑気味の視線をこちらにちらりと寄越し、目に見えて迷っていた。


それもそうだ。
女と毎晩寝ている奴に同性を愛してますなどと言えるはずがない。
非難されることは必至だろうし、同時にそれは政宗が一番恐怖に思っていることなのだから。


「綱元…」

「政宗様のみならず片倉まで参っている模様……私は見ていられません」

「鬼庭っ…」

「ぁあ?寝てねぇことぐらい判るんだよ。若いふりしてんじゃねえ」


同い年の綱元に言われてしまえば黙るしかなかった。
疲労はどうしたって蓄積するものだ。

綱元の言葉に政宗の表情が変わった。
部下に負担をかけてしまっているのだと言われたも同然なのだから。

それでも逡巡していたようだったが、少しして政宗は重い口を開いた。


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