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現世乱武小説
敵に回すくらいなら(小十佐)


「でさ、かたくーが面倒見てる別の人ってどんな人?やっぱ政宗みたいな?」


殴られた頭を未ださすりながらも(当然だ、本気だったのだから)、成実はめげない。

成実は興味本位といった感じに訊いてきたが、まさかそこに話が戻るとは思っていなかったため予想外の展開にどぎまぎする。


「…面倒を見ているというほどでは…。十分に処世術を心得た者ですから」

「へぇ。いくつよ」

「……二十歳、だったかと」

「ハタチィ?かたくー接点なくない?…あ、常連かなんか?」

「いえ、……」


どう言えばいいのだろう。
いやそもそも言っていいのか?

…まぁ、教えるくらいなら…


「二十歳…二十歳……あーねぇ、もしかして熱血くんと一緒に来てた人?…さる…さる……猿なんとかっていう」

「………」


教える以前に鋭すぎる勘に当てられてしまった。
……ほんと、恐ろしい人だな。

しかし逆に、そこまで判っているなら話は早い。


「猿飛佐助といいます」

「ふぅん。……かたくーは判りやすいなぁ」

「は…?」


くすくすと悪戯っぽく笑う成実の様子に首を傾げるばかり。
二十歳といえば佐助、というなんとも奇跡的な繋がりを持たせてみせた成実に言われたくはないのだが…

腑に落ちない顔付きの小十郎に成実の笑みは深くなった。


「特別な感情持ってるっしょ。佐助さんに対して」

「……え、は?」


ちょ、ちょっと待て。
何を言ってるんだ?


「だってさぁ、面倒見てる人って俺言ったのに別に問題ない人あげたじゃん?それって頭ん中をかなり占めてるよね」

「いや……あれは…」

「政宗の名前に並ぶほどの存在かぁ…。よっぽど大切なんだ?嫉妬ー」


政宗様に並ぶ…大切な存在。

……そうかもしれない。
向けている感情こそ違うが、それほどの想いを寄せていたのだろう。

あのやり取りだけでそんなことを感じ取れるとなると……やっぱり敵に回したくない人物だ。


と、そこで成実の最後の台詞が引っ掛かった。


「……て、あ…?嫉妬、とは…?」

「だって佐助さんが好きなんでしょ?そりゃ妬くって」

「すっ…、いや…好っ…」


さらりととんでもないことを言われた。


「…なに慌ててんの。かたくーは政宗のこと好きでしょ?同じくらい佐助さんのことも好きなんじゃないの?」

「あ…そういう…」


あー心臓に悪い。
そういう意味で受け取っていたのならよかった。
てっきりばれていたのかと思って焦ったのなんの…


「もしかして…ライクじゃなくてラブ?」

「ぶっ!?」

「え、なにビンゴっ?ほんとに愛してんのっ?」

「……い、いいえ?」

「しーらじらしいねーぇ。でもいいなぁそういうの。俺もつなもっちゃん誘ってみよっかな」

「鬼庭には毎夜毎夜別の女性がおりますが…?」

「かたくーだって似たようなもんだったじゃん。てか付き合ったりしてるの?」


言うべきか言わざるべきか。迷うこと数秒。

だが、敵にすれば厄介であることは裏を返せば味方になってこれ以上心強いものはないということ。

それに、これが最大の理由だったりするのだが、ここまで割れてしまってはどうせ感づかれるのがオチだ。


「……ええ、まぁ」

「やっぱりなぁ。毎日のように来てたじゃん?怪しいと思ってたんだよ」


成実は満足そうに腕を組みながらうんうんと頷く。
なんというか…非常に居心地が悪い。
流石にどこまで進んだかなどという下世話な質問はしてこないが、成実の場合いちいち訊かずとも大抵あたりをつけてしまうから怖い。

政宗も人の変化には鋭いが、成実のそれは政宗以上のものがある。
それぞれ何故そんなものが培われたのかきちんとした理由はあるが、今はそこは余所に置いておくとして。


「…さ、そろそろ政宗様がお帰りになる時間。中でお待ちしましょう」

「ん、もうそんなか。あ、種どうする?」

「種なら私が注文しておきます。ご心配なく」

「えー、かたくーとホームセンターとか行きたかったー」

「なら明日の午前にでも参りましょう」

「うはっ、支配人客のこと考えてねー!」

「鬼庭がいれば大丈夫です」


政宗のことだけじゃなくて旅館のことも、若いオーナーを支える支配人として一人で背負いすぎていたのだろう。
創立時に伊達の三傑などと呼ばれた仲間を何故頼らなかったのか。
自分一人で出来ることでも確実に心身は疲れていくのだから。

成実と共に庭をあとにしながら、小十郎は身体が軽くなるのを感じた。


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あきゅろす。
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