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現世乱武小説
生き写し(小十佐)


…まさか見られた?
いやいやそんなわけないじゃん、だって足音聞いて即離れたんだから。
でも見たから才蔵はあんなこと訊いてきたわけで……
ってことはやっぱ見られた?
いやいやそんなわけないじゃん、だって足音聞いて…


才蔵の質問に瞬きすら忘れ、ひたすら同じ自己問答を繰り広げる。


「…猿飛殿、どうした?顔が真っ青だ……具合でも悪いか?」


眉を潜めて俯き加減のこちらの顔を覗き込んでくる才蔵に、一瞬優しく頬を掬う小十郎が重なった。


「ッ……な、んでもないよっ?うん、元気元気!」


なんとか笑顔を取り繕おうと必死になるも、どうもうまくいっている気がしない。
得意だったのに、なんて今更思えなかった。
最近の俺様、なんかそれが出来なくなってるから。

……って、そんなことより!


「えー…っとね、男どうしでもするか、だよね。……ま、まぁありだとは思うけど。なんで急に?」

「…いや、先程猿飛殿と小十郎殿が口付けを交わしていたように見えてな。誘拐に加えて強姦までされてはあんまりだと思い助けに行ったのだ」

「は…ははは、まさか…小十郎さんだよ?そんなことしないって」


なに、なになにどういうこと!
あの距離から背中向けてる俺が何してるか見えてたってことっ?
洞察力すごすぎ!…てか目ェよすぎ!

泣き笑いしたい気分になりながらもなんとか笑顔を保つが、


「猿飛殿たち流のコミュニケーションといっていたから、てっきりあれも常なのかと思ってな」

「あはは…はは…」


……わざと?
もしかして見てたけどわざと曖昧なふりしてるっ?


なんだか段々、判っていてあえてこちらを試すためにすっ惚けているのかと思えてきた。

だからといって乗ってやる義理などないが。


「そうか。…なら、よかった」

「…え?」


どくん。


よかった…?

その台詞と、才蔵の微かに安堵の色が滲む口元に胸がざわめく。
嫌な感じにどくん、どくんと大きく、しかし殊更ゆっくりと脈打つ心臓が煩わしい。


「よかったって……なんで…?」


声が掠れる。
自分の声が遠くなる。


ただなんとなく気になっただけとか、興味本位での質問だったらよかったなんて言わないはずだ。
なのに…まるで本心からのぼやきのように言う才蔵。
暗雲が立ち込めるのは早かった。


「? いや、なんとなく……なんでだろうな。何が『よかった』なのだ?」

「……」


無意識というわけか。
自分で言っておきながら才蔵は難しい顔で首を傾げて唸っている。
無意識に出てしまう言葉はなにも適当という意味ではない。
何かが根底にあって、でもそこに回路が繋がっていないが為に頭で理解することが出来ず意識するに及んでいないのだ。
ぽろりと零れるぼやきは言わば漏電。
そうなるとアースはぼやいたことを認識することとでも言えばいいだろうか。



…才蔵は、今まで俺の後ろをついてきて、そして追い越そうと努力している。
それは俺をライバルと定めた故に俺の――猿飛佐助の真似をしているんだろうと、周囲同様自分でも思っていたし、才蔵自身も「猿飛殿がそうするから」と言っていた。


でも、それがもし間違いだったら?


本当は真似なんてしてなくて、素の才蔵が考えることがたまたま一緒だったのだとしたら。
才蔵本人も気付いていないままにもとから俺の嗜好と被っていて、しかしそれを才蔵は「猿飛殿の趣味だから」などと意図して興味を持ったと勘違いしているということもなくはない。

つまり、何も真似などしなかったとしても俺と同じことをして、俺と同じものを好きになって、嫌いになっていた、とか。
身のまわりに誰しも一人はいるだろう。示し合わせたわけでもないのに同じ趣味趣向を持つ人物というものが。


それが、俺にとっては才蔵なのかもしれない。
思い返してみれば色々と思い当たる節はある。
同学年なのにやたらと真田の旦那のことを心配することといい、学校をサボり気味だったことといい、仕事への取り組み具合や吸収力の高さといい。

もとからそういう星の下に生まれたのなら有り得なくもない。
要は生き写しだ。

と、なると。
反発していたのにも説明がつく。

所謂、同族嫌悪だ。




趣味趣向が同じ。

……ならば、好きになる人が同じでもおかしくない。


不確かだった胸のざわめきが形を成した。


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