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現世乱武小説
目撃者vol.2(小十佐)


「猿飛殿っ、無事かっ!」

「ッ!!!」


たたた、という軽い足音と共に才蔵の若干切羽詰まった声がかけられた。
びくりと身体を揺らして小十郎の肩にやっていた手を突っ張り離れると、ちょうど腰に才蔵の腕がまわされて強引に車内から引きずり出される。

ハンドルやら窓枠やらに頭を強かに打ちつける度になかなかに殺人的な音が鈍く響いたが、才蔵は何故か必死な様子でそんなこと気にもしていない。


「いっ……ど、どうしたの才蔵…」

「どうしただと?何を寝ぼけているっ、」


尚も背後から懸命にこちらの腰を抱え込み、ずりずりと後ずさり車から距離を取ろうとする才蔵。
怒っているような顔つきで声を張った。





「危うく誘拐されるところだったぞ!」





「……ゆう、か…?」


真顔で一体この子は何を言っているんだ。
とうとう辛うじて付いていたネジが抜けたのか。

ぼけっとする佐助に痺れを切らしたのか、才蔵はぐるんと力任せに佐助の身体を反転させて至近距離で目を合わせてきた。


「かの猿飛殿がここまで錆びてしまうとはな…
自身が連れ込まれそうになったというのに危機感は零というわけか」

ぎり、と奥歯を噛み締めて睨み付けてくる才蔵の姿にようやく合点した。

「俺が永久のライバルと認めたお前のその堕落ぶり……直々に手合わせして叩き直してや――

「はーい待った待った。誘拐も何も相手は小十郎さんなんだからさ、そういう心配いらないでしょーが」

「……だが先のは無理矢理だったぞ」

「え。あー…あれは……コミュニケーションだよ、俺様たち流の」

「……………あれがか」

「そ、そう」


猜疑心に満ちた才蔵の視線から逃げるように小十郎を見遣れば、我関せずといった感じでぷかーと煙草を吸っていた。
ああ…その目の伏せ方、色っぽいなぁ


…じゃなくて!


「小十郎さんもなんか言ってやってよ!」

「…お前が変なこと言い出すからじゃねえか」

「俺様っ?最初に言うこと聞いてくれなかったのそっちでしょ!」

「なんでもいいが、猿飛殿。この仕事が終わったら果たし合いだからな」

「なんで!!」

「平和ぼけした本能を呼び覚ましてやろう」

「うーわいらないいらない!…てか小十郎さん?どこ行くのさっ」


目を離していた数秒のあいだに小十郎はエンジンをかけてサイドブレーキを下ろしていた。


「どこって…帰るだけだ。霧隠、佐助を相手にするぶんには構わねぇが、政宗様には手ェ出すんじゃねえぞ」

「心得たぞ、小十郎殿」

「え、なんか愛が見当たらない。俺様への愛が見当たらない」

「またあとでな」


短くそれだけ残して車は後退して敷地から去って行った。


「さあ猿飛殿、早く帰って明日の夕方のために体力を温存しておけ。お前が老いようと俺は容赦しないぞ」

「まだ老いてないっていうね!」


半ば吐き捨てるように切り返し、じりじりと距離を詰めてきていたかすがと小太郎のほうにがばりと向き直る。

ああもう…
そんな好奇心に満ち満ちた目で俺様を見るなっ


「…佐助、随分危なげな男と親しいようだな」

「危なげなのではないぞ、金髪殿。小十郎殿は完全に危ない。…世間では危ない奴のことを"ラリってる"などと言うらしいが…もしや小十郎殿、」

「ラリってない!小十郎さん全然ラリってないよ!!」


才蔵がよからぬことを言い出さないうちにと、佐助は叫ぶようにして解散の号令をした。










才蔵と共に二輪車の駐車場所に歩く。

なんだかしらないが今日はやたらと疲れた。
掃除程度しかまともな作業はしていないのに、だ。
否、寧ろ仕事が終わってからぐっときた気がする。つまりどう考えてもあのどたばたが原因というわけだ。


…まあ、収穫というと聞こえは悪いが、それもあったことだしよしとしてやるか。


「……なあ猿飛殿」

「んー?」

「気のせいだったらすまないが…」


いきなり立ち止まったかと思うと、才蔵は何やら神妙な面持ちでこちらを振り返った。
つられて佐助も足を止め、低い位置から見上げてくる双眸をとりあえず受け止める。


「なに?謝るとからしくないじゃん」


瞬きをして見返すと才蔵は逡巡するように一瞬目を泳がせたが、すぐに覚悟を決めたのか口を開いた。






「男どうしでも…口付けはするのか?」






……は?


………えぇっ!?


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あきゅろす。
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