現世乱武小説
過保護と心配性(小十佐)
「…で、今日の仕事は終わったのか?」
「ん?ああ、うん。言うこと全部言ったしね、解散だよ」
「…の割に、全員お前を待ってるようだが…?」
「え゛…」
小十郎の視線が明らかに自分の更に後ろに向けられている。
待ってるって……まさかみんなあれから動かないでこっち見てたりして…
そぅっと背後を振り返ると、五十メートル近く離れた場所でひっそりとこちらを窺う何対もの眼差しとぶつかった。
「……、」
予想は的中していた。
あとできつく灸を据えてやらないと、なんて言える面々ではないだけにやり切れない。……だってかすがとか普通に怖ぇっしょ、ちくしょう。
まぁ声は聞こえない距離だからよしとしよう。
…あー、小十郎さん見られちゃったよ。どういう関係にしとこうかな。
「乗ってくか?家なり旅館なり送ってやる」
ぐるぐる考えていた頭に小十郎の声が飛び込んでくる。
その気前のよさも男に繋がるんだよね。
「いや、今日原チャなんだよね。それとー…今日はお手伝いよしとくわ」
「真田が心細くならないように、か?」
即座に言われて、驚きのあまり反応出来なかった。
この人は俺のことを俺以上に判ってくれているらしい。
苦笑いで軽く頷いた。
「まあね。そういう小十郎さんこそ伊達の旦那が気になってしょうがないくせに」
「……自覚はあるさ。
ああ、夕べ気付いたんだが……いや、今朝か。まあいい。
お前は過保護だ」
「え…は?なに急に…」
「そして俺は心配性だ」
「……うん、それで?」
「? …それだけだが」
「はい?」
「……」
「……」
…あ、なに、つまりそう思いました、マルっていう事後報告?
「……なんだ、その顔は」
固まってぽかんとする佐助に不審そうな視線を送る小十郎。
的外れなやり取りをしていることに気付いていないご様子。
…なんというか。
胸の奥が擽ったいような、そんな感覚。
今更、なんて思われるかもしれないけど、小十郎さんの言動はいつだって大人びていて、それは恋仲になっても変わらなかった。
まあ確かに肌を合わせたりするようにはなったけど……振る舞い、とでもいったらいいのだろうか。
いつもどこか護られているように感じていた。
冗談を言ったりからかわれたりするのは、大人ならではの余裕というか…
とにかく、それは親しくなった証みたいなもので。
でも今のは。
「…おい、どうした?」
黙りこくってしまったこちらの様子に、困惑の色が混じった声がかけられる。
佐助はひたすら首をふるふると振り、言外に気にしないで、大丈夫、と伝える。
…今のは、保護対象としてではなく、同等に扱ってもらえた気がしたから。
無理に空気を読んで間を推し量ったりせず、思い付いたことを口にする。
その砕けた姿勢は今までの俺と相対する小十郎さんにはなかった。
だからだろうか。
……認められた気がした。
「…心配性だけど過保護だよね、小十郎さんも」
「それを俺に言うか。お前だって常人と比べりゃ相当な心配性だろ」
大将に認めてもらって。
メンバーに認めてもらって。
小十郎さんに認めてもらって。
「……原チャ置いてこっかな」
「盗られるのがオチだ。持って帰んな」
「えー……なんか今すごくあんたの隣座りたいんだけど」
「あ?しょっちゅう座ってんだろ」
「いーいーじゃーん。……ホントは抱き着きたいくらいなんだから」
「……いいぜ」
「…え、いいって……ぎゃあ!」
拳を撫でていた小十郎の手が不意に二の腕を掴んできて、ぐんと引っ張られた。
咄嗟に抵抗できず前のめりになって上半身だけを窓の中に突っ込むような形になる。
危うくハンドルに顔面を打ちそうになりながらも、シートに手をついて小十郎に倒れ込まないようなんとか踏ん張る。
「あ…っぶね…」
「暴れんな」
「はあ?この体勢でそういう――」
少々乱暴に頭を引き寄せられ、小十郎の広い胸に収まった。
しばらくそのまま動くことも出来なかったが、のろのろと小十郎の肩に手を置いて身体を支えつつ相手の胸元に鼻先を擦りつける。
頬に手を添えられて顔をあげると、細められた鋭い双眸と視線が絡み合い、どちらからともなく唇を重ねた。
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