現世乱武小説
メンバーの称賛(小十佐)
「じゃ、今日はこのっくらいで十分っしょ。明日で終わらせよっか」
時刻は四時をまわったあたり。
中の掃除もあらかた終わり、作業としては最終工程だった。
で、すべてを完璧に終えたら設計士を呼んでチェックしてもらって…
えーと、もう不動産のほうとかにも連絡入れていいんだっけ?
信玄の手順を思い出そうとするが、なんとなく見ていただけだったので自信はない。あとで確認しないと。
「あーそれとさ、」
既に解散モードに切り替わっていたメンバーの注意を再びこちらに向け、次の仕事の話をした。
伝えるべきことをすべて伝えると、メモを取っていたかすがが不意に口を開く。
「随分順調に進められているな…。お前のことだ、もっとルーズになると思っていた」
「お、そう?まぁ大将が影で操ってるみたいなもんだからさ。あとは俺様の要領のよさかなーなんつって」
「最後が余計だ。蹴り上げてやろうか」
「うーわおっかな!なんちゃってって言ったじゃんっ」
目を細めるかすがから距離を取って近場にいた小太郎の背に隠れるように後ろにまわる。
「どけ、風魔!そいつの欝陶しいほど高くなった鼻をへし折ってやる!」
「ひぃっ、助けてこた――?」
小太郎に取り縋ったとき、今まで動かなかった小太郎がくるりとこちらを向くなりバンダナの上から頭に手を乗せてきた。
咄嗟に反応出来ずにかすが共々ぱちくりと瞬きを繰り返す。
「…小太郎?」
「………」
そのままなでなでと優しく動く手。
目深に被ったバンダナからは小太郎の目は見えず表情を窺うことは出来ない。
とりあえずされるがままになっていると、ずっと傍観していた才蔵がもしかしてと呟いた。
「猿飛殿を……褒めているのではないか?」
「え…」
才蔵の台詞に声が漏れる。
ちらりと探るように小太郎を見遣ると、小さな首肯が返ってきた。
「小太郎…」
「……ふん」
かすがは腕を組んでそっぽを向いてしまったが、俺は感動の波にやられていた。
「…ありがとね、小太郎」
「褒めるというのもなんだか上から目線だがな」
直後「え、」という顔になる俺と小太郎。
手をぱっと離してぶんぶんと思いきり首を振って否定の意を表す小太郎に代わって、才蔵の頭をはたいた。
「こっ…こら才蔵っ!小太郎がそんな子なわけないでしょうがっ」
「い〜っ……そ、そんなに怒るな。猿飛殿は冗談の塊なのだろう?今の冗談が何故通じない」
頭を押さえながらむっとした顔で見返してくる。
…でもちょっと待った。
その前にさ、
「…あのー、冗談の塊ってなに、俺様初耳なんですけど」
「? 金髪殿がそう言っていたぞ?あいつは冗談の塊のような男だとな」
才蔵が指差す先を目で追っていくと、視界に確かに金髪が飛び込んできた。
目が合い腕組みしたままのかすがに挑むような口調で凄まれる。
「…何か不都合でもあったか?」
「…いいえ、別段」
ぎぎぎ、とかすがの視線から逃げるように首を明後日の方向に向ける。
才蔵はなんでも吸収してく子だからなぁ…
なんだか知らないところでも色々とかすがに吹き込まれていそうだ。
才蔵に畏怖の眼差しを向けたちょうどそのとき。
ざりざりと地面を擦りながら敷地に一台の黒塗りの車が入ってきた。
スモークガラスに囲まれているが、運転席を確認するには及ばない。
あんな車を持っている知り合いはたった一人。
「……なんだ、あの高そう車は」
訝しげに呟くかすが。
小太郎もよく判らないといった風に固まっている。
「なんだ猿飛殿、原付きなのに迎えを頼んだのか?」
「いや…迎えに来てなんて一言も…」
不思議そうに訊ねてくる才蔵に答えながらも、視線はかすがたちと同じく車のほうへ。
…でも、なんとなくこんな予感はしていた。
やはり小十郎も政宗のことで思うところがあったのだろう。
「…あのベントレ、お前の迎えなのか、佐助?」
「え、と……あー、うん、みたい。あはは…」
明らかにかすがが引いている。
やっぱり美人は引いてても美人だ。
小十郎さんがこっち来たら…たぶんあっちの世界の人だって勘違いするよね。
…よし、ここは俺様が…
「えーと…みんなお疲れさんっ」
びっと手を挙げて早口に言うと、相変わらず不思議そうな才蔵、なんともいえない渋面のかすが、怯えているのか小さくなっている小太郎、それぞれの視線を一身に受けながら脱兎の如く小十郎のもとへ走った。
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