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現世乱武小説
起死回生のお迎え(小十佐)


政宗共々眠ることはなく学校に出る時間になり、次第に政宗の表情からも曇りが抜けてきていた。
葛藤は辛かっただろうが、吹っ切れたのかもしれない。言い方を変えれば、諦観。


「小十郎、もし今日アウトだったら慰めてくれよ?」

「お任せを。政宗様をあやすのはこの小十郎の十八番。飯を口にすることより容易いです」

「あ、あやすってお前っ……んなガキじゃねえ!」

「はいはい、もう行かれませんと遅刻致します。長曾我部殿はとうに行ってしまわれましたぞ」

「あ、テメ軽く流すな!あいつだって元就が迎えに来なけりゃ今頃俺と一緒だっ」


噛み付いてくる政宗をいなしていると、旅館の入口扉が横に開く聞き慣れた音がした。

朝もまだ早い時間。予想外の来客に、出勤していた従業員たちも一拍置いて声を張った。


至るところから飛んでくるいらっしゃいませの声に続いて、それを上回る大音声がフロントに向かっていた政宗と小十郎の耳に飛び込んできた。


「おはようございます!!」


その声は、今政宗が一番聞きたくない人物のものだ。
ぴたりと前を歩いていた政宗の足が止まる。おそらく無意識に心が拒否してしまっているのだろう。
しかし、ここで止まってしまってはいい方にも悪い方にも転ばない。


「…政宗様」


そっと肩に手を添える。
押すのではなく、後ろに退がってしまわぬように。
困惑が手を通して伝わってくる。


「All right...」


こちらの手に手の平を軽く重ね、ひとつ頷くと政宗は足を進めた。
手から政宗がするりと抜けていく。

…自分が行けるのはここまでだ。


「よぉ幸村…どうした?」

「政宗殿!学校へ共に参りませぬか?」


明るい幸村の声がフロントの奥の通路にまで聞こえてくる。
そのいつもと変わらない様子に正直小十郎はかなり驚いていた。

政宗に気負わせないようにという幸村の気遣いに気付かないほど鈍くはない。
ただ、いつからそんなに器用になったのか。
相手の心を読み、辛いのは自分も同じなのに無理にでもなんでもないように振る舞う。

それではまるで…


ふと、愛しい赤毛が脳裏に浮かんだ。
俺が政宗様のクッションであるのと同様に、あいつは真田のクッションってわけか。


思わず苦笑が漏れてしまう。


あの真田が無理をすることを覚えたのだ。
あいつからしたら複雑だろう。

伸び伸び育って欲しいと思っていただろうから。
自分にないものを真田に投影する癖が、自然とあいつにはついていた感がある。

それは純真な明るさ。

あいつはそれを捨てた代わりに、補佐する側へとまわることを選んだ。
それがどういうわけか同調させてしまったという結果は、後悔というものを味わわせるかもしれない。

あいつがそんな考え方に至ってしまうのも、すべては過保護にすぎるから。


「小十郎、行ってくるっ」

「行って参ります!!」

「――ええ、お気をつけて」


弾むようにぱたぱたと玄関を出ていく二つの足音。
遅刻するなどと叫び合いながら走る後ろ姿は、既にハードルをひとつ乗り越えたようだった。


「……あとは佐助か。…なんともなけりゃいいが」


佐助を過保護と言ったが、自分も人のことを言えた口ではない心配性かもしれないと苦々しく胸中で呟いた。


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