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現世乱武小説
気掛かりだらけ(小十佐)


喝の入った幸村を見送り、洗濯物をざっと干し終えると佐助は車庫に仕舞われていた原付きを引っ張り出してきた。
車の免許は面倒だからという理由で取っていない。
…まぁ、取りに行く時間がないともいえる。何せ不定期な仕事。いつ大型の依頼が飛び込むとも限らない。

そもそも、近所のスーパーにさえ行ければ今までの佐助にはなんの問題もなかったのだ。
少し遠い現場になら命懸けではあるが信玄号に乗せてもらえたし、遠出なんて洒落た趣味は持っていない。


でも、大将に頼ってばっかってわけにもいかないしなぁ…


金はかかるし日にちだってかかる。
気は乗らないが、もしもの事態に備えて…というのは現場が他県だったりしたときのことだが、そうなったら車はどうあっても必要になるだろう。その前に信玄号を操れるようにならないと。


庭まで原付きを転がしてスタンドを立て、玄関に放置していた洗濯カゴを回収し中に入る。


「…さーてと。」


洗面所に洗濯カゴを置いて台所に向かい、グラスをふたつ棚から下ろす。
次いでインスタントコーヒーの粉末を適量入れてあらかじめ沸かしておいたポットでお湯を三分目あたりまでちょこっと注ぎ、五分目まで水で軽く埋める。
氷は四つが我が家の定番。
八分目まで牛乳を注いで、片方のグラスにのみガムシロを入れて仕上げにストローを。

よし、これで俺様流アイスコーヒーの出来上がり。


「大将、どうぞ」

「うむ。…おぉ、ちょうど今アイスクリィムなぞを食べたいと思っておったところよ」


ガムシロを入れていないほうのグラスを居間で新聞を広げる信玄の前にことりと置いた。

朝とはいえもう涼しくはない季節。
嬉しそうに言って信玄がグラスを手に取るのを眺めつつ、佐助自身ストローを口に含んで目元を緩めた。


「そろそろ麦茶も忙しくなりますねぇ。…っと、これ飲んだら俺行ってきます」


ちらりと時計を見てアイスコーヒーを口一杯に吸い上げる。
今しがたいれたばかりで勿体なくはあるものの、作業中の水分溜め置きも兼ねて無理矢理流し込む。
味わう暇もなく、なんなら己こそ麦茶にすればよかったかと今更内心でぼやくが、飲みかけを捨てるくらいならそのまま飲んでしまえという庶民じみた考えで処理した。


大将がいなくなったからといって鼻を高くして、今までの一番槍を損なってはメンバーに示しがつかない。
…かすがあたりにはなんてどやされるか知れないしな。

特に才蔵とは、信玄号を駆使していたときですらタッチの差。
信玄が隠居した初日などは危なかった。
才蔵の後ろ姿を見つけ、慌ててアクセル全開で追いつき同着という結果。
同行者がいないというだけでああも気持ちは弛むものなのかと軽く衝撃を受けたほどだ。


「んじゃ、いってきまっす」

「気を張りすぎるでないぞ」

「了解ー」


ばたばたと慌ただしくバックパックを肩に引っ掛けて玄関を出て原付きに跨がりメットを装着。

発進しつつ頭の中では幸村の心配ばかりしていた。
だいぶ前になるが、政宗に告白された次の日の幸村はそれはもう見ていられない様子だった。その翌日には学校に行ったが、恐らく不自然な言動をしてしまっただろう。

あれから幸村は成長した。

…しかしそれは、動揺や不安などの心の不安定さを隠すという方法を覚えただけにすぎない。
精神面は以前にも増して余裕を失っているはずだ。


佐助はアクセルをぎゅ、と無意識に強く握った。


旦那は…そんなこと出来ないほうがいい。
感情を忙しなく表してみんなに面倒をかけながら、周囲が落ち込んだときはあの眩しい笑顔で元気を分けてあげる。
自然とそれが出来る人だから、そのままでいいと思っていたのに。

…俺が、悪い手本見せてたかな。

昔から嫌なことや気掛かりなことがあっても機械的に笑顔なんて作れてたけど、たまにそれが本物じゃないって旦那には気付かれてたし。

ま、俺様が気落ちしたところで何も変わりはしないんだけどさ。


「……伊達の旦那とか大丈夫かね」


全然気にしてない、なんてことはないだろう。

朝から小憎らしいほどの晴天の空を見上げ、同じく悶々としているかもしれない恋人を思い描いた。
…青空の似合わない人だ、などとこっそり考えながら。


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