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現世乱武小説
明け方の涙(小十佐)
*視点変更*





結局、幸村と政宗はその夜帰ってこなかった。
夜遅くまで旅館に残って小十郎と共にその帰りを待っていたが、零時を過ぎても連絡ひとつないので佐助も信玄のもとへと帰ったのだ。

ちなみに元親は今夜旅館に泊まることになった。
朝の従業員の働く様子を見ておきたいんだとか。

チカちゃんってそんなに熱心だったっけとぼやいたらボディーブローを食らわされた。ついでにその直後、元親は小十郎から背負い投げをもらっていた。



家に帰ってからも、もう時間も時間だというのに佐助はなかなか寝付けずに携帯ばかりを気にしていた。
幸村がもし電話をかけてきて自分が出なかったら寂しいだろうから、いつ鳴ってもいいように。


待ちに待って携帯が光った。
時刻は4時。
光るだけということはメールの受信を示している。
佐助はぼうっとしていた頭を振って焦って空回りする手でフリップを乱暴に開いた。

メールをあけてみれば、発信者はやはり待ち望んだ大切なあの人から。
逸る気持ちを抑えて文面に目を落とすと、短く

『今から帰る。あとで話を聞いてほしい』

とだけあった。


メールにしたのは、恐らく寝ているであろうこちらを起こさないようにという幸村なりの気遣いの顕れだろう。

しかし佐助は返信をしなかった。
きっと何かしら了承の意のメールを返すのが一般的なのだろうが、今それをやってしまったら起きていたことがばれてしまう。
そうしたら、幸村は心配してくる。性格上それは絶対だ。
まぁどのみち今からなんて眠れやしないが。


いつだったか、初めて俺が小十郎さんと身体を重ねたときは旦那が寝ずに待ってたっけ。

それを思うとなんだかおかしくて笑えてしまう。
案外似たようなことしてるんだなぁ。
小十郎さんも起きてたりして。


それにしても本当によかった。
どうなったかは判らないが、とりあえず一晩共にいたということは喧嘩などはしていないと思う。


佐助は布団から起きだし、朝食を作るにはまだ早いのでポットのコンセントだけいれて居間に向かう。
雨戸をあけると信玄が起きてしまうので、あと一時間くらいは電気をつけて過ごす。
適当にテレビをつけてニュース番組を見ながらも意識は玄関へと向けられていた。


部活の合宿などでない限り、幸村が信玄や佐助を連れずに外で夜を明かすことはまずなかった。
遅くとも8時や9時には家に帰ってくる。
小さい頃からの信玄の教えを違えずにこなしてきたのだ。
それもあってか、幸村は高校生になってもまだまだ子供扱いされていた。
若輩者といえば確かにそうだが、佐助が同じくらいの歳の頃と比べると扱いが随分違う。

大事な大事な、武田家の末っ子。
信玄の幸村に対する手のかけようもひとしおだった。



暫くニュースやら天気予報やらを眺めながら時間を無意味に潰していると、遠慮がちに鍵がまわされてドアがあけられる音がした。

はっとして居間から廊下に出て玄関に飛び出し、そこにいた人物の様相に声が出なかった。


「……ただいま」

「だん、な…?」


確かに幸村だった。

しかし、その頬は涙に濡れていた。


幸村の涙なんて、それこそ幼少時代以降目にした記憶がない。
佐助が絶句している中、幸村がすとんと力無く玄関に座り込んでしまった。


「っ、旦那!」


我に返って裸足のまま駆け寄り、たいして体格の変わらない身体を引きずるように廊下に運び、懸命に居間まで連れていく。

涙を拭く気力もないのか、幸村は新たな涙を溢れさせるばかりで佐助にされるがままにされている。


なんとかテーブルに着かせ、足早に台所へ向かう。茶葉を急須に適当に入れて湯の沸いたポットを引っ張り寄せてそこに熱湯を注ぐ。
次いで湯呑みに手早く移し、居間で蹲る幸村の前にそっと置いた。


「…旦那、平気?」

「さっ…さすけっ……ひぅ、」


背をさすってやりながら隣に腰を下ろすと、堰を切ったように幸村は泣き崩れてしがみついてきた。


「もう大丈夫だよ、俺様がいるから…」

「う、っ…ぐ、ぅぅ…」


…こんな旦那、見たことない。

幸村の頭を抱き込んで宥めつつ、佐助は表情を険しくした。


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あきゅろす。
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