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現世乱武小説
 危惧を払拭するは・壱


身体の奥から微かに響いてくる振動音。
零れそうになる熱い吐息を殺して佐助は奥歯を噛み締めた。


「っふ……、」


周りに気付かれたりしていないだろうか。
音は、声は、漏れていないだろうか。

そんな不安とやり場のない焦りに苛まれながら、胎内に収めた憎たらしい淫具にまたもや意識を傾けそうになり必死に抗う。


今は昼休み明けの一発目の授業の最中。
担当の教師は歴史を得意とする危ない顔の片倉小十郎だった。
無論、授業中ということは前後左右を同級生に囲まれているわけで。
何も知らない友人たちの中、一人快感に耐え忍ぶのは拷問に近かった。

それもこれも。

ちらりと顔を上げると、こちらの視線に気付いて教壇に立つ男が見返してくる。
睨み付けてやると、そいつは目を細めて口角をくいと上げた。


そう、それもこれもすべてあの男、小十郎のせいだった。










――時間は昼休みまで遡る。

昼食を終え、小十郎に呼ばれていた佐助は職員室に足を運んだ。
久しぶりの登校への苦言、もしくはお誉めの言葉だろうと軽く踏み、小十郎のデスクの横に行くとおもむろに紙袋を渡された。
反射的に受け取ってしまってから土産か何かかと心躍らせたのも束の間。
中身を確認し、ひくりと片頬を引き攣らせる佐助に反してにやりと笑みを刻む小十郎。


『……どういう意味』


中に入っていたのはローター。
しかもなんだかいぼのような突起がローター全体に不規則に埋め込まれていて、シャープとは言い難い。
なんというか、凶暴なローターという名詞がぴったりだ。


『それ付けて次のコマ出ろ』


小十郎は隣のデスクに教師が座っているにも関わらず無情にも愉しげに言い放った。
その言を受けるなりくらりと眩暈を覚えた。
次の授業は小十郎が受け持つ歴史。
誰が付けるかそんなもの。


『無理に決まってんでしょ…。そんなことするくらいなら俺様早退するから』

『ほぅ…?ま、構わねぇさ。お前が嫌だってんなら他の奴にやらせるだけだ』

『他の……って、何、それ…』


奇妙なほど平板な佐助の声も気にせず、小十郎は紙袋を返すよう手振りで示しながらなんでもないことのようにさらりと言った。


『言葉のままだ。…ああ、クラスの連中には何もしねぇから安心しとけ』

『……』


つまり、なに、俺の知らない誰かにこれをぶっ込むってこと?

ふつふつと怒りとも焦燥ともつかない曖昧な感情が込み上げてくる。
そりゃあ俺たちは確立した関係じゃないけど、だからって俺様本人の前でそういうこと言う?


『要するに…挑発してんの?』

『さあ、どう取ろうがお前の勝手だが』

『ふぅん…』


剣呑な空気が二人を包む。
口元に微笑を浮かべる小十郎を思いきり睨み付けて、佐助は差し出される手を軽くぱしんと叩き落とし紙袋を改めて腕に抱いた。


『…上等じゃん。でも俺様ばっかリスク負うのは割に合わないと思わない?』

『……それもそうだ。いいぜ、お前が耐え抜いたら何かしてやる』

『そうこなくっちゃ。』

小十郎の余裕に対抗するように佐助も笑みを深めた。

『耐えられたらさ、今夜その俺様の代わりって人に会わせてよ』

『…それだけでいいのか?』

『安上がりでいいでしょ』


佐助が持ち出した交換条件に、小十郎は不敵な笑みを以て乗った、と短く言った。

黒いオーラを醸し出しながら微笑み合う自分たちは大層薄気味悪く見えたことだろう。














そうして半ば意地になって収めることになったこの玩具。
当然己の身が味わった経験などなく初めはどんなものかとトイレで恐々入れてみるが、強引に突っ込んだ為圧迫感はどうしても付き纏ってくるものの慣れてしまえばさして辛くはなかった。


…が、甘くみていた。


授業が始まって数分後。
唐突にローターが震えだしたのだ。
これには流石に声が出かけたが、なんとか身体が一度跳ねただけに留めた。

こんな話聞いてない、と驚きを隠せない眼差しで教壇の小十郎をばっと見遣ると、なんともいえない酷薄な笑みが返ってくる。

……この鬼畜がッ…!

歯噛みして胸中で叫ぶものの、小十郎に伝わるはずもない。
遠隔操作機能付きということは、リモコンはあの鬼畜教師の手中。


ヴヴヴ…

「ッ、ぅ…」

下唇を噛んで俯き、じくじくと下肢に溜まる確かな快感を散らそうとするが、己の身体ながら上手くいかない。


軽いノリで付き合ってしまった軽率さを、これからの三十分以上ものあいだの苦悶を思うと心底呪いたくなった。


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