現世乱武小説
ポテトの友情(左三)
バイトに行くまでの半端な時間は政宗とマクドナルドで潰していた。
こちらが話しやすいように気をまわしてくれているのだろう、ぶうたれる幸村と兼続を帰らせ、二人きりになって小さな丸テーブルを挟んで座っていた。
お互い頼んだものをもそもそと口に運んでひと心地ついたあたりで、政宗が口火を切った。
「…島さんとなんかあっただろ」
開口一番そう指摘され、ポテトに伸ばしていた手が咄嗟に止まった。
「……」
何も返さず、再び黙々とポテトを口に放る三成の反応を政宗は肯定と取ったのか、隻眼に確信の色を濃くして見つめてくる。
言ったところで何も変わらない。
余計な詮索をするな。
以前までの自分なら、そう言って席を外していたのかもしれない。
だが、純粋に誰かがそうしてこちらの負担を軽くしようとしてくれているのだと思えるようになっていた。
今までにない、温度のある捉え方。
政宗も三成がちゃんと話してくれるとは考えていなかったようで、三成が口を開くと若干驚いた風に僅かに目を見開いた。
「…昨日、喧嘩した」
ぽつりと、まるで懺悔するように。
しかし喧嘩というのはどうなのだろう。
「……、違うな。」
そう、違う。
喧嘩というのは同等の者同士がやるものだから。
「俺が…意地を張って、左近がとうとう呆れた。…と言ったほうが正しい」
政宗は真剣な顔で聞きながら、どことなく腑に落ちないといった顔で首を捻った。
「……それさ、本当か?」
問われて今度は三成が首を捻る。
こんなところで嘘をつけるわけないと思うのだが…
何故そんなことを訊くのか戸惑いつつも首を下ろす。
しかしやはり政宗は納得いかないようで、考え込むように押し黙ってしまった。
何か口を挟むのも憚られて一緒になって黙り込んでいると、しばらくしてようやく政宗が切り出した。
「島さん、今どこにいる?」
「……山形だ」
「あ…?え、は?や、山形っ?」
「ああ。仕事だと言っていた」
まあ、驚くのも無理はない。
昨日の今日で山形まで飛んでしまったのだから。
政宗は頭を掻きつつとにかく、と場を持ち直した。
「たぶん島さん、もうなんとも思ってねぇよ」
「だ、だが…」
「お前なぁ…あの島さんだぜ?いつまでも気にしてると思うか?」
「気には…してないかもしれんが…
俺は、変わりたいのだ」
「三成…」
そう。
変わって、左近に見合う器になりたい。
もうこんな自分の過ちで左近を困らせたくない。
しかし自分には素直さや一生懸命さ、感情の起伏もあまりない。
相手を楽しませることも出来なければ共に笑うことだって満足に叶わないのだと、ぽつぽつと言っていく。
政宗はそれを茶化すことなく聞いていてくれた。
こんな、誰にも話せないような己を蔑む醜い面を、睥睨せずに真剣に受け止めてくれる。
しかし一通り思いを吐露し終えたとき。
「おりゃっ」
「むぅっ?」
時間がたってしまいふにゃふにゃになったポテトが口に突っ込まれた。
生温くて美味しいとは言えないが政宗の表情は優しいそれで、抗議できなかった。
「あんたはもう変われてるよ」
「え……」
「あーいや、変わったっていうより…成長したっつーの?」
タメの俺が言うのも変だけど、と気恥ずかしそうに頭を掻いて政宗は笑い、改めて何故かポテトをまた突っ込まれる。
言われたことに唖然として咄嗟にポテト攻撃に反応出来ず、間抜け顔で顎を動かす。
口の中のものを飲み込み、にっとした笑みの政宗を見返して意味を問うとこともなげに返された。
「だってよ、今のままじゃ嫌だって思ったんだろ?それって前のあんたを振り返ってその段階にいったんだよな?
だったらその時点で前までの自分じゃねぇじゃん」
「……」
二の句が告げなかった。
確かにそうだと感心し頷く反面、なら俺はどうしたいんだと判らなくなる。
「そういうのってよ、」
政宗は言葉を選ぶように難しい顔をして続ける。
「自分で変わろうって思って変わるんじゃなくて、自然と変わってるもんだと思う」
「自然と…」
「Yes.俺は話聞いてあんたの成長に気付いたけどよ、傍にいた島さんならもっとちゃんと気付いちまうだろうさ」
そうだろうか。
自分でも判らない変化を、他人が明確に感じ取ることなんて…
「だって、あんたにとって島さんは他人じゃねえだろ?」
「そ…れ、は…」
心の内を読まれたような鋭い台詞。
頭に広がる動揺は大きかったが、きっとそうだ。
他人とは関心がない者を指す。
でも俺は、左近のことが好きだから。
「……政宗、」
「ん、ぐっ!」
ポテトを引っ掴んで政宗の口に突っ込み、顔を伏せながらぼそりと呟いた。
「…ありがとう」
「いや……てかこのポテト美味くねぇ…」
「っ、お前…それを今言うかっ」
「はははっ、sorry sorry」
左近に電話でもしてみようか。
バイトの休憩時間にでも。
そうして少しでも話せたら、すぐにもとに戻れるはずだ。
政宗に感謝しつつ、互いにポテトを突っ込み合った。
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