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現世乱武小説
軍神的お遊び(左三)


「ゆうげのしたくができたらおよびしますよ」


そう言われて通されたのは四階の一室。

…いや、一室という単語で片付けるには少々無理があるかもしれない。何畳だここ。
例えるならバスケットボールのコートくらいだろうか。
窓に面してドでかいデスクが鎮座しており、豪奢なベッドが何故か部屋の中央に置かれている。四隅を柱が支えていて、ろくに意味などないだろうが屋根がくっついている、カーテン付きのやつだ。

確かにシンデレラ城もどきにはあってもおかしくない代物である。
しかし…だからってこれを俺に勧めるのは、相応の勇気がなくてはなかなかどうして難しい。
理由?
想像してみるのが一番手っ取り早い。
このレースのふりふりカーテンから。純白のもこもこ羽毛布団から。
眠たそうなむっつり顔の俺がのそりと起きてくる様を。


判ってる。ああ判ってる。
お世辞にも目に優しいとは言えないってことくらい。


「どっちかっていうと…狭い部屋のほうが落ち着くんですがね」


念のため苦笑いで言うが、謙信は困ったような顔をした。


「ここよりちいさくなると…わたくしのしんしつくらいしか…」

「……あー…そうですか…」


うわぁ。
すごく複雑だ。
さすがにそこまで踏み込む勇気はない。


「うつりますか?」

「いえっ、このままでいいです」

「…きょうみはおありですか?」

「……」

な、なんでそこを問い詰めてくるんだ…?
ちらりと相手を窺えば、どことなく挑戦的な眼差しとぶつかった。
意図が掴めず、慎重に逆に訊き返す。

「あったら、どうなんです?」


生唾を飲むような緊迫感。
危険な匂いがするが、それを本能的に察知する嗅覚は城に入る前から機能不全になっている。
今更何を言われようと、宿を貸してもらえるからには受け入れなくては。


「こどもたちもここをでていってひさしい…。ぜひ、このせきりょうのねんをはらうべく わたくしのとなりでねてはくれませんか?」


固まること数秒。
ああ、頭痛が…


「えーと、つまり……そ、添い寝をしろと?」

「ふふ、きょうみがおありでしたら」

「……」


…う、う、受け入れられねぇ…

ぞわぞわと肌を走る怖気に、ひくりと片頬が引き攣る。


なんなんだ。
一体なんだっていうんだ。
添い寝ってことはそれなりの行為を求めていると捉えるのが道理。
寂しいからといって床を共にするだなんて大袈裟すぎる。


…要するに、俺はこの人にそういったことを期待されてるってことか?


「…あ、あの、上杉さん、俺そういう趣味は…」


三成さんは別だが、あの人以外の男を好き好んで抱いたりしない。
というか、もしかして抱いていそうとかっていう目で見られてるのか…?


はっ。
まさか…逆?
寂しいから抱かせろ、とか…


嫌な汗をかきつつ、一人暴走する俺。
上杉さんはくすりと笑い、じょうだんですよとどこか楽しそうに言った。

冗談などを言いそうにない顔だけに全く安心材料にならないのだが。


「では、わたくしはしつれいします。レプリカをつくりたいときはいつでもいってください」

「…………どうも」


人のよさそうな微笑を称えつつ部屋を出ていく謙信を、左近は猜疑心に満ちた眼差しで見送った。

カチャンと軽い音がして扉が閉まると、いつの間にか止めていた息を一気に吐き出す。
ついでにデスクに歩いていき、持っていたカバンをその上に放って両開きの窓を開けた。

誰かが使用していた形跡もないのに、窓枠や床等は照り返さんばかりに白くて眩しいほど綺麗に磨かれている。
しかし手伝いの人や同居人は見当たらない。
自分でやっているとしたら相当の掃除好きだ。


「…俺んとこにも来てほしいね」


感嘆混じりに呟き、散らかっているわけではないがすぐに埃が溜まってしまうマンションを思い出す。
人が生活していないと、いくら新築だといってもやはり傷むのは早い。


「さーって、早いとこ終わらせますか」


白すぎて笑えてしまうようなデスクに向き直り、椅子に腰掛けカバンを開く。
方眼紙やら線引きやらを取り出しながら携帯のフリップを開き電話帳からある名前を検索する。


「……」


あとは通話ボタンを押すだけ。


しかし、そこで指が止まった。
しばらく帰れない、そのことだけを伝えようとしていたが、相手がこちらの帰りを待っているとは限らない。
いなくて清々するなどと思われていたらこれからやろうとしていることは嫌がらせに等しいだろう。


「…いらねぇか」


自嘲気味に嗤ってぱたんとフリップを閉じ、日当たり良好のデスクの上に置いて代わりにシャーペンを握った。


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