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現世乱武小説
だいじょうぶ(小十佐)


「なあ、掃除用具入れてあるような場所の臭い消しても意味なくね?」


元親をあしらいながら左近の車から持ち出した消臭剤を小部屋の中に撒き散らす。
これならとりあえず大丈夫だろう。


そのあと小十郎と佐助を探していた従業員に捕まり、一組の客の帰りを折目正しく見送った。

オーナー代理と支配人の仕事ぶりを若干離れた位地から、物珍しそうに見守っていた元親に小十郎が向き直る。


「長曾我部、ある部屋以外は自由に探索していいから適当に見てまわれ」

「ある部屋って…客室?」

「ああ。タチの悪い奴がいるから近づかないほうがいい」


とはいっても元親も会ったことはある。
王様ゲームで初の対面を果たしたというだけあってあらぬイメージを持っているかもしれないが。

というか、小十郎を見た瞬間こいつはなんて言った?
ちゅーがどうのとか言ってはいなかったか。


……あーそうだ。旦那が変なこと言い出すから…

いや、ここは提案者より、純粋な提案者にそのような卑下た単語を吹き込んだ恋人のほうに非がある。
まぁ、その恋人の保護者に惚れている己がいるのだからそれ以上は言うまい。


「っと…」


不意にワークパンツの尻ポケットにあった携帯が震えた。
メールだったらサイレントに設定しているので電話のほうだ。

小十郎と、彼に問題の部屋の場所を聞く元親に軽く背を向けるようにして携帯を取り出しディスプレイを確認する。


…旦那だ。


デート中にも関わらず電話とは…
政宗も可哀相にと思いながらも、若干耳から離して通話ボタンを押した。
幸村の大音声を耳元で聞く行為は鼓膜を破ってくれと自ら進み出ることとイコールだ。


「もしもーし」

『……け、…った……になっ…』

「え、あーごめん旦那。何?もう一回言って」


予想に反して幸村の声は小さかった。
まるで周囲に気を使って囁いているかのように。
幸村の話法に囁くなんてものがあったのかと変に感心しつつ、電話越しの険呑な空気に眉を潜める。


「どしたの?」

『……困ったことになった』

「? …っていうと?」

『…今、ら…ら、らぶっ…らぶほ…』

「……らぶほって…ラブホっ?」


思わず素っ頓狂な声を出すと、ひどく慌てた様子で幸村に声が大きいと叱咤された。

しかし近くにいた小十郎と元親には佐助が今しがた発した単語はばっちり聞こえているわけで。


「は?ラブホ?…へぇー、誰と誰よっ?」

「……まさか…」


興味津々にだらしなくにやけた顔で詰め寄ってくる元親と対象的に、小十郎は頭に浮かんだ否定しきれない嫌な予感に引き攣った微笑を浮かべている。

二人をちょっと待ってと手ぶりで制し、電話の相手になるべく落ち着いた声で訊ねた。


「それってもちろん…向こうから?」

『……うむ。何をするのか判らず訊いてみたら…』

「訊いたのっ?…うわぁ…まぁそうだよなぁ…、それで?」

『…ほ、掘ると』

「……」


くらりと頭痛を覚えた。

確かに幸村は鈍感だし、ちゃんと説明しなくては通じるものも通じないことがある。

しかし、何も知らないところをいきなり掘ると言われれば…


歯に衣着せぬ物言いはさぞショックだったろう。


『さ、佐助…?』


黙り込んでしまったこちらに不安の色が濃い声音で怖々と呼びかけてくる。
普段はまずない弱々しいか細い声に胸が詰まる。


「……伊達の旦那は?」

『い…今はシャワーを…』

「…そっか。……大丈夫だよ、怖くない」


数ヶ月前の自分を思い返す。
しかし、幸村と同じ気持ちであったわけがない。
自分の場合はだいぶ前から、そういう行為に対する心の準備が出来ていた。


でも。

それでも、不安だった。


「俺も…怖かったけど…」

『佐助…』

「大丈夫。本当にヤだったら泣いてもいいんだよ。絶対無理強いはしてこないから」


だって、小十郎さんが面倒見てきたんだ。
欲にものを言わせるような性格なんかじゃない。


遠いところで扉が開くような軽い音がした。
政宗が出てきたのだろう。

大丈夫だから、と確とした口調で念を押すように言って、こちらから通話を切った。

電話している姿を見たら政宗も気が引けるだろう。
相手が不安がっていることは政宗が一番判っているだろうし、政宗本人だって緊張しているはずなのだから。


男女がするのとはわけが違う。
お互いを信じなければ叶わない行為。
先程まさに同じことをした身としてはかなり複雑な気分だった。


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