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現世乱武小説
純真みっちゃん(小十佐)


「島さんみっちゃーん、入るよー?」

「いやっ、ちょっと今は…」


目的の部屋の前に着くなり中に声を投げると、躊躇うような怪しい口調で左近が応えた。

小十郎と視線を交わし、ひとつ頷くと遠慮なく障子を横に押し開く。


「……」

「なんの用だ」


目に飛び込んできたのは、ぐしゃぐしゃに乱れた布団の上に突っ伏す左近と、その上に悠々と腰を下ろしている三成という奇怪な光景。


「…島、いつの間にかそんな性癖持つようになったのか」

「違いますって!」


引き気味に呟く小十郎に必死に弁解し、左近はかい摘まんで説明した。

三成が目を覚ましても自分が隣にいなかっただけでなく、帰って来たと思ったら何をしていたか話そうともしない。それ等が気に食わず、罰として文字どおり尻に敷かれているらしい。


「あははっ、でも島さん、ほんとは嫉妬してほしかっただけなんでしょ」

「お、さすがに佐助はよく判ってるぅぐっ…」

「俺がお前に嫉妬なぞするかっ」

どすん、と左近の背に座り直してぴしゃりと言い放ち、改めて三成は佐助と小十郎に目を向けた。

「で、お前等はなんの用だ」


どうやら左近との二人だけの空間を壊されたことに苛々しているらしい。
果報者だねと俯せる左近に言ってやると渇いた笑いが返ってきた。

さて、この雰囲気で持ち出していい話題かどうかというと怪しいものだ。
一人で来ればまだやりやすかったかもしれない。まぁ小十郎を引っ張ってきたのは自分なのだが。

しかしここでだんまりを決め込んでは余計に怪しまれる。
ここは出来るだけ普通にいこう。そう、普通に。


「あのー……島さんさ、リセッシュみたいな…その、臭い消し持ってない?」

「ああ、車にいつも入れてるが……まさか」

「なら鍵寄越せ。いらねぇ口上叩くな」

「…なるほどね。まーったく、時間なんてお構いなしかい」

「? 左近、なんの話だ」

「いえね、お二人とも仕事中にも関わらずセッ」

「こらこらこらぁー!!島さん勘弁してよマジでっ」

「ちっ…だからこいつには頼みたくなかったんだ」


苦々しく頭を掻きながら吐き捨てる小十郎をさらに煽るように、左近はにやりと笑って「俺まだ何も言ってませんけどね」などと嘯いた。


「……」


ぴき、と目元に影を落としてこめかみに血管を浮かせ、無言のまま小十郎は三成の隣にどっかり腰を下ろした。


「〜〜おっも!!」

「…鍵寄越せ」


悶絶する左近の背骨に肘をぐりぐりと捩り込みながら物騒な声音でそう言う小十郎を見て、そっと三成は左近の上から佐助のもとへ移動する。


「……なんの臭いを消すのだ?」

「え、っと……コ、コーヒーをソファに零しちゃってさ」


そんなこちらのやり取りのあいだにも、小十郎は左近に固め技をかけてダウンを奪おうとしていた。


「コーヒー?…悠長にしていていいのか?染み込んでからでは遅いぞ」

「あ、あーまぁ、そうね」


こっちはこっちで信じてるし…

佐助がげんなりしてきたとき、三成が声を張った。


「左近、何を惜しんでいる!急がねば臭いが染み込み、他のものが不快な思いになるのだぞ!貸してやれ」

「染み込むって…くくくっ」

「佐助っ、言ったのかテメエッ」

「違っ…」

「もういいっ、俺がやってやる。どこのソファだ?」

「あ、いやっ、ソファっていうか…」


何やら一生懸命になってくれている三成に迫られながら、笑いを堪える左近とガンガンに睨みを利かせてくる小十郎を視界に納めつつなんだか泣きたくなった。


「…そ、掃除用具庫…です」

「ぶふっ」

「黙れ島ッ」

「用具庫に……コーヒーを零したのか…?」

「コ、コーヒーっていうか……もういやあぁぁぁ」

「くっ…くくく」

「島ァ!!」

「ええい、はっきり言え!」


結局左近を解放し、三成に真実を隠したまま鍵を借りるなり猛然と車に走った。


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あきゅろす。
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