現世乱武小説
特例の条件(小十佐)
言い方こそ違うものの見事にニュアンスがハモった佐助と小十郎に、元親はうっと声を詰まらせた。
「だっ…、しょうがねーだろっ。機械弄るの好きなんだから…」
もごもごと視線を逸らして居心地悪そうに呟く元親。
確かに元親の機械好きは折り紙付きだった。
ゲームのカセットを分解したことに始まり、テレビのリモコン、ビデオデッキ等々目に着いたものは有無を言わさず解体していく。
ドライバー一本で数百個、数千個の部品にことごとく分けて目を輝かせ喜ぶのだからどこまでも幸せ者だと思う。
高校時代、佐助が元親のアパートに行ったときこいつはコンポを分解したのだが、話をしながら作業していざ組み立てという段階に入ったとき不意に不安になり訊ねたことがある。
順番と場所を覚えているのか、と。
この男は、恐らく生まれてこの方集中というものをしたことがない。
本を読ませても活字には目もくれず挿絵だけをぱらぱら見て読んだと言い張り、テレビを見ていてもここからがクライマックスというところでチャンネルを変えたりする。
要するに元親にとってはすべてが遊びなのだ。
そんなだから心配になったのだが、彼には無用だった。
にかっと歯を見せて笑ったかと思うと、『おう、この手のもんは大丈夫だ。それよりなんか面白いテレビとかやってねぇ?』などと言って鼻歌混じりに部品を物色しだしたのだ。
この手のもの、ということはコンポを以前にも解体したことがあったのか、という問いは、元親の手の鮮やかさに舌を巻いていたため出来なかった。
今思えば天性なのだろう。
テレビを見つつ着実にスピーカーやら本体やらを組み立て、みるみる部品がなくなっていった。
誰にでも出来ることではない。
「…ま、どこに就きたいかは親ちゃんが決めることだもんね。それで……他でも稼がねーとってのは?」
半ば呆れ気味に訊くと、元親は力のない笑みを虚空に向けた。
「そんなことするつもりなら仕送りなしにするって言われちまってよ…」
「仕送りなしって……親ちゃんが発掘した金みたいなもんじゃん。なんで親が紐握ってんの?」
「俺が高校行くときに全部親に任せてきたんだよ。企業がどうのって面倒くせぇだろ?
ビジネスっぽいのなんてよく知らねーし興味もない」
興味もない。
きっとそれが元親にとっての一番の理由なのだろう。
「…やっぱりすごいなぁ、親ちゃんって」
心底そう思う。
何事もやりこなしていく器量があって、力もある。
ただ興味の有無で自分で道を選べる。
羨ましい。得意なことなんてこれといってない俺には、元親は眩しすぎた。
「なるほどな。それで譲る気もないから生活費が足りねぇと」
「…そういうこと」
困ったように笑い、元親は改めて頭を下げた。
「頼むっ、片倉さん!面接とか面倒だろうが…やってくれねぇかな…」
「顔上げろ。決めるのは俺じゃなくて政宗様だ。……でもま、佐助に給料渡してないぶん雇えないわけじゃねぇ」
「は…?お前タダ働きなのかっ?」
「うん、好きでやってるだけだからさ」
手伝わせてと言ったのは自分自身。最初は日給で出すと言われたが、佐助はこれを断固拒否した。
「今日は生憎政宗様は一日お帰りにならない。本来なら出直してこいと言うところだが…」
そこでちらりと佐助を見遣り、再び元親に視線を戻した。
「…お前は特例だ。とりあえず今日はぐるぐる回って仕事見てけ」
「片倉さぁーん……あんた…いい人だなぁ」
「小十郎さん…」さすが俺が惚れた人だ…
特例。
それは佐助の友人であるから。
ひとつのアイコンタクトで仄めかされた意に、自然と顔が緩むのが判る。
「…佐助、顔変だぞ」
「へっへぇー、気のせいだよねぇー」
「……お、おい片倉さん、こいつってこんな感じなのか?」
「まぁ…こういう日もあるだろ」
「…俺にはねぇぞ」
嬉しいときの顔なんてどうにもならない。
しかし、ふと数分前のことを思い出して元親を見た。
「ねぇ親ちゃんっ、リセッシュとか持ってる?」
「はあ?」
「あー!そうだよ小十郎さんっ!島さんなら持ってそうじゃないっ?」
わけが判らないといった様子の元親をほったらかして小十郎を振り返ると、苦々しい面持ちがそこにあった。
「…有り得ることは有り得るが……出来れば奴には頼みたくねぇ」
「人選んでる場合じゃないでしょーがっ。ほら行くよっ」
「あ……俺もかっ?ちょ、おい長曾我部!そこのソファに掛けて待ってろ!」
ぐいぐいと小十郎の手を引いて部屋に急いだ。
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