現世乱武小説
想い通う(小十佐)
かちゃ…と軽い音がしてドアが閉まると、小さな窓がひとつしかない小部屋の中は途端に薄暗くなる。
モップや座敷用の箒、障子の貼紙等雑多に詰め込まれているだけに人がいるほどの十分なスペースはない。
半畳程度の場所に気まずい雰囲気で直立する形になる。
埃っぽい空間に二人きり、黙っていた小十郎がぼそりと口を開いた。
「…悪かった」
「え……何が?」
唐突に紡がれたのは謝罪の言葉。
何か謝られるようなことをされただろうかと思考を巡らせる反面、怒らせていたわけじゃなかったんだと胸を撫で下ろした。
窓がなければ涼しいのであろうこの部屋は、締め切ってしまうと夏場は熱が篭って蒸す。
じわじわと汗が滲み出てくる背中を無視して続きを待つと、小十郎はちらりとこちらに一度目をやって、
「…お前に隠しただろ」
どこか申し訳なさそうに呟いた。
そして隠した、というフレーズでようやく佐助も小十郎と何があったのか思い出す。
「…ああ!」
「……気にしてたんじゃねぇのか?」
そうだ。
あのとき打ちひしがれたように背を向けて、寂しいとかなんとか言い捨てて走ったのだった。
厨房で走り回っていたあいだにそんな自分の悪戯心すら忘れていた。
明らかに今思い出したという反応をしてしまった佐助に訝しむような視線を向ける小十郎。
…ずっと気にしていてくれたのだろうか。
そう思うと温かいものが胸を満たしていき、同時に申し訳なくなってくる。
「えと、気にしてたっていうか…」
「…?」
「……気にしてほしかったっていうか…」
「お前…」
「……ごめん」
小十郎を困らせておいて、更にそのことを忘れるなんて最低だ。
この人が言わないことは俺にも必要のないことであって、そこで相手を責めてもどうにもならない。
「そうか…」
少し掠れ気味の声が、安堵の色を込めてよかった、と続けた。
そして殊更優しく抱き寄せられ、長身を屈めて肩に額を預けてくる。
相当心配したのだろう。
泣かしたかもしれない、と。
きっと自分よりも年上の小十郎のことだから、経験にものを言わせてすぐに上手いことを言って自然と和解に持ち込まれるんだろうななどと考えていた。しかしまだ佐助への免疫は出来ていないようで、怒られそうな話だが、それがまた新しい発見で嬉しくて。
「…ごめん」
もう一度、先程より頼りない声になってしまったけれど。
返ってきたのは返事ではなく、甘くて熱い口付け。
「っ……、」
ねっとりと下唇を舐められ、自ら小十郎の舌を受け入れる。
這入ってきた舌を探るように絡め、角度を変えながらより深く繋がりを求めて貪り合った。
「は、っん……こ、じゅうろっ…」
息継ぎの合間に切れ切れの言葉を紡いで、身体の芯に生まれた熱を吐息で紛らわそうと試みるが上手くいかない。
…やばい。
小十郎さんに…抱かれたい。
やり場のない身体の火照りをどうにかして伝えたくて、ぐっと腰を前に進めて小十郎の固い太腿に擦りつけた。
「こじゅ、ろ…さん、俺…」
「ここで…いいのか?」
するりと腰にまわされていた小十郎の手が互いの身体のあいだに滑り込み、きゅっと少しだけ勃ち上がっていた佐助の雄を服の上から軽く握った。
それだけの微弱な刺激にも反応して膝が震える。
「んっ、いぃ……鍵、は…」
「あるわけねぇだろ。…声、抑えろよ」
ドアに手を突くように誘導され、指示どおり小十郎に尻を向ける体勢を取ると容赦なく穿いていたワークパンツと下着を脱がされた。
抱き込まれるように背後から雄を掴まれ、背にぴったり張り付く小十郎の無駄のない胸板の感触と体温を感じる。
「ぁ、ふっ……くっ、」
極力声が漏れないように奥歯を噛み締めて。
そろそろと濡れた呼気を口唇から細く長く漏らし、快感を逃がそうとしつつも自身を愛撫する手から聞こえる水音に劣情は煽られるばかりだった。
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